皆さん、こんにちは。 山田肇です。 今日は、情報アクセシビリティ対応が高める 企業の競争力ということでお話させていただきます。 よろしくお願いします。 私の今までしてきた仕事の中で1つ、 アクセシビリティに関係するのが、 みんなの公共サイト運用ガイドラインの作成であります。 総務省に協力して、このガイドラインを作成する 委員会の主査を務めました。 このガイドラインは、Webサイト等、Web技術で構築した 様々なサイト、あるいはサービスについて アクセシビリティを確保するように 公共機関に求めるものであります。 そのほか、様々な仕事をしておりますが 普通の研究者ではない変わった仕事としては 「ドラえもんと一緒に情報に強くなろう」という 本を書いたことがあります。 小学生の子供たちにドラえもんの漫画を読んでもらう。 それと同時に情報って どういうふうに利用すればよいのか。 どういうふうに利用してはいけないのか。 あるいは正しい情報ってどういうふうにしたら 得られるのか等々を説明をし、 21世紀に生きる力を養ってもらう、 そういう目的で作られた本であります。 どうぞ皆さんも時間があるときに、あるいは お子様と一緒にご覧いただければと思います。 さて、本題に入ります。 我が国内において、情報アクセシビリティに対応する 市場の規模は大きいものであります。 高齢化率は昨年の9月に28.7%でありました。 2065年には38.4%まで拡大すると予測されています。 障碍者の人口比率については 令和2年度障害者白書を見ると分かります。 人口1000人当たり身体障碍者は34人。 知的障碍者は9人。 精神障碍者は33人だそうです。 この全てが別々に存在しているか、 あるいは、身体障碍者であり、かつ知的障碍者である方も いらっしゃるかもしれませんけれども ざくっと足し算をすれば、国民のおよそ7.6%が 何らかの障碍を有しているということになります。 日本には外国から来られた方が 多く居住しておられます。 その中には日本語が分からないという点で アクセシビリティに問題を抱えた方がいらっしゃいます。 在留外国人は、昨年6月末で289万人。 人口の2.3%ということでありました。 これらを合計すると、国内市場では 半数弱がアクセシビリティに 何らかの問題を抱えているということが分かります。 世界各国でも高齢化が進展して、アクセシビリティに 対応した機器・サービスの市場は、 着実に拡大を続けています。 さて、このような状況下で昨年来 新型感染症のまん延が続いています。 まん延の中で、日本の問題として多く指摘されたのが デジタル対応の遅れでありました。 政府はその反省から、今、デジタル改革法案を 国会に提出し、審議をしてもらっている最中であります。 法案は3つ。 デジタル社会形成基本法案。 デジタル庁設置法案。 デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する 法律案の3本立てでございます。 衆議院の審議はすでに終え、参議院に移っていますが 衆議院での審議の段階で、 障碍者対応について記述を強化するという修正に 与党と一部野党が合意をいたしました。 まだ参議院の審議が残っておりますので、 必ずこの修正が成立するというふうには 保証はしかねるところでありますけれども、 賛成している政党が多いことから、 成立は強く期待できるところであります。 具体的に何が変わったのかであります。 デジタル社会形成基本法には 利用機会等の格差の是正という条項があります。 この中に地理的な制約、年齢、身体的な条件、 経済的な状況、その他の要因で うまく利用できないことについて、是正を着実に 図らなければならないというふうに書かれています。 しかし、身体的な条件というのは何を指しているのか、 必ずしも明確ではありません。 この部分を与野党合意で 障碍の有無等の心身の状態というふうに 書き換えるということになりました。 法律というのは日本国民が、あるいは日本国内の 組織がそれを基にして経済活動を行うものであります。 したがって、我々は法律の 読者ということになるわけですけれども、 読者としては身体的な条件と書かれているよりも 障碍の有無等の心身の状態と書かれているほうが より明確に何を指しているかが 分かるということでございます。 さらに関連法案、 束にして改正を行おうとしてるんですけども、 その中のデジタル手続法について、第12条 情報通信技術の利用のための能力等における 格差の是正という部分について、 障碍の有無等の心身の状態というふうに 今までの身体的な条件から書き換えるということが 衆議院段階では合意されています。 同様に官民データ活用推進基本法においても 第14条において、地理的な制約、年齢、身体的な条件、 その他の要因に基づいて、ICTの利用機会が 格差があるということについて 必要な措置を講じるものとするというふうに 書かれていたんですけれども、 その中の身体的な条件を消し、 障碍の有無等の心身の状態、経済的な状況というふうに 書き直すということが、 衆議院段階で決定をしております。 先ほども申し上げましたように、法律というのは 読者のために存在します。 読者が読んだときに内容を理解し、 それに対応して、様々な活動を行うわけですが、 そこに明確に障碍の有無等の心身の状態という記述が 加わったということは、一歩前進であります。 これによって、デジタル庁においても あるいは行政全般、国の行政機関、 地方の公共機関等々、全てについて 障碍の有無等の心身の状態に対応した情報通信の利活用を 促進するという方向性が示されたわけであります。 また、この国会では障害者差別解消法の改正案も 審議されており、すでに衆議院は通過しております。 障害者差別解消法には、第7条に行政機関等の義務が、 第8条に事業者の義務が定められています。 2つの条項の第1項は同じであります。 その事業を行うに当たり、障碍を理由として 障碍者でない者と不当な差別的取り扱いをすることにより 障碍者の権利利益を侵害してはならないと 書かれてあります。 しかし、そのような根本的な方向性があったとしても 現実社会の中では 様々な社会的障壁が存在する場合があります。 そこで、第2項として障碍者から現に 社会的障壁の除去を必要としている旨の 意思の表明があった場合において その実施に伴う負担が過重でないときには 対応するということが書かれておりますが、 第7条行政機関等では、 社会的障壁の除去の実施について 必要、かつ合理的な配慮をしなければならないと 書かれています。 これに対して、事業者の義務を定めた第8条においては 社会的障壁の除去の実施について 必要、かつ合理的な配慮をするように 努めなければならないと今までは書かれていたわけです。 これについて、事業者のほうについては 努力をするということは書かれていますけれども、 実現をするということが書かれていないという点が 問題であるというふうな理解が 社会的にも深まってまいりましたので、 今国会での改正案は、するように努めなければならないを しなければならないに変える。 それによって、行政機関と事業者ともに現に 社会的障壁の除去を必要とする旨の意思表明があり その実施に伴う負担が過重でないときには、 ちゃんと対応しなければならないということが 定められるということになりました。 最初のデジタル3法案は、もちろん社会形成の 基本法というのも含まれておりますので、 社会全体にもカバーされますが、 デジタル庁設置法案に象徴されるように 主に行政機関についてコントロールするための 法律であります。 これに対して、障害者差別解消法は、行政機関についても 事業者についても義務を定めているということで こちらのほうが範囲が広く、民生市場についても 適用されるというふうに解釈することができます。 米国はこのような考え方で先行しております。 まずは、公共機関に義務を定める。 その後に、あるいは、それと並行して 民生市場も改善を図っていく。 そういう考え方を取っております。 公共機関については、リハビリテーション法 508条がございます。 電子および情報技術を開発、調達、保守、または 使用する場合、各連邦省庁は、過度な負担でない限り 情報、およびデータへのアクセスおよび使用について 障碍のない連邦職員と障碍のある連邦職員に あるいは障碍のない一般市民と障碍のある一般市民に 同等の扱いを保証しなければならないというふうに 書かれております。 しかし、政府が調達する際に、この製品は、 このサービスは同等の扱いが保証できるものである。 この製品は、このサービスは できないものであるということを自ら判断するのは、 とても難しいものがあります。 そこで、IT関係の業界団体が508条基準を満たす機器や サービスであるというふうに 提供者側として自己宣言をする標準書式を定めました。 この標準書式のことを通常、VPATという 言い方をしています。 MicrosoftのWordというソフトウェアについても VPATを利用して、 Microsoftが508条基準を満たすことを 自己宣言しています。 ごく一部分が画面に映っておりますけれども、 ここに映っている部分では、 非テキストコンテンツについて代替手段を ちゃんと用意しているということについて 対応してるよというふうに書かれています。 このようにして、調達側はVPATを利用することによって 新しい機器・サービスを購入できる、調達できる、 それは連邦職員、あるいは一般市民に障碍の有無を 問わず利用できるものになるということが 保証されるわけであります。 民生市場について司っている法律が 障碍を持つアメリカ人法であります。 この法律に基づく訴訟が 民間企業に対して多発しています。 アメリカは訴訟国家ですから、 法律の実施ということについて確実にそれを行うために 訴訟が行われているわけです。 訴訟の結果は、提供者側は、機器とかサービスを 改善することを余儀なくされる。 そういうような形での決着が非常に多くございます。 例えばビヨンセ。有名な歌手ですけれども、 彼女のサイトも2019年1月に訴訟を提起されました。 原告の訴訟の文には、次のように書かれています。 視覚障碍者と健常者の別なく与えられる 唯一のエンターテイメントは、音楽を聴くことです。 原告はビヨンセのコンサートに行き、 彼女の音楽を生で聴くことを夢見て、 Beyonce.comにアクセスしました。 しかし、彼女はサイトが提供するグッズやサービスに たどり着くまでに無数のバリアに阻まれたのです。 今までご説明したように、米国でも公共機関には きちんと義務を課す。 民生市場については、米国の場合には 訴訟によって実質的に義務化をするという形で 対応を強化しているわけです。 日本の場合には、すでにお話をしたように デジタル改革3法案によって、 主に公共機関に義務を課し、 一方、障害者差別解消法の改正によって 民間企業にも同様の義務を課すということで 米国と同様に情報アクセシビリティを重視する方向に 動いているわけでございます。 日本政府がデジタル3法案を国会に提出する前に 閣議で、デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針が 閣議決定されました。 昨年の12月25日のことであります。 そこには、デジタル社会の目指すビジョンということで デジタルの活用により1人1人のニーズに合った サービスを選ぶことができ、 多様な幸せが実現する社会を目指すんだ ということとともに 誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を 進めるというふうに書かれていました。 同日、基本方針の下で実施される デジタルガバメント実行計画も閣議決定されています。 デジタルガバメントの実行計画には、 国民のデジタル活用度に対応した 多様な手段を確保するんだということが 方針として書かれております。 そして、その方針の具体的には4点。 1つがデジタル活用支援員の本格実施。 2つ目がみんなの公共サイト運用ガイドラインの拡充。 4つ目が市区町村等における 国民のアクセスポイントの確保でありました。 1つ飛ばした3つ目が企業による自社製品の アクセシビリティ向上に向けた 自己評価様式の構築であります。 この言葉を聞けば、皆様方は、これはアメリカのVPATに 対応するものだなというふうに 容易に想像することができると思います。 まさにそのとおりでございます。 企業による自社製品のアクセシビリティ向上に向けた 自己評価様式のことを 総務省が主管しておりますが、総務省は これを日本版VPATというふうに呼んでおります。 すでに日本版VPATの基本的な書式は定まりました。 私はこの書式を定める委員会にも参加をして 様々発言をしてまいりました。 書式は、作成日、企業団体名、ICT機器、 サービスの名称等々を記載した後に 視力なしでの使用ができるかどうか、 その評価結果を記入する。 あるいは限られた視力での使用、弱視やロービジョンの 使用ができるかどうかを記入するというような形で 記載していくものになっております。 自己宣言ですので、これは自社のサイトで 公表するという形になります。 この評価結果を参照することで、公共とか民間が 製品、機器、サービスを購入する際に アクセシビリティに対応した 機器、サービスを購入することが容易になります。 ということは、アクセシビリティに対応した 製品サービスの市場が 拡大していくということでございます。 さて、経済産業省は今年の4月21日 ついこの前ですけれども、 市場形成力指標というものを公表しております。 SDGs等の社会課題解決を目指す領域で、 持続的なビジネスを成立させることが 日本企業に求められている。 または、対応することによって日本企業の競争力は 高まっていくというふうに主張し、 その上で市場形成力には3つの軸があるというふうに 言っております。 1つがアジェンダ構想力。2つが社会課題解決力。 3つがルール形成力でございます。 アジェンダ構想力というのは、 戦略的にアジェンダを設定し、 社会課題の解決が価値として評価される 市場を形成する能力であります。 2つ目の社会課題解決力というのは、 他者との連携等を通じて、 社会課題解決に資する財・サービスを 提供する能力でございます。 ルール形成力というのは、ステークホルダーと 他者と連携してルールを形成する能力であります。 さて、情報アクセシビリティ対応は、全ての人に 健康と福祉を実現していくんだという SDGsの目標に合致するものであります。 情報アクセシビリティ対応は、社会的課題でもあります。 したがって、この市場形成力の考え方で 企業がこの市場問題、社会的課題を 解決していくということがあれば その企業は社会課題の解決に貢献したということで 社会的な評価を得ることができるわけです。 すでに冒頭にお話ししたように、 アクセシビリティ対応の機器・サービスが 価値として評価される市場は存在しています。 その規模は、日本人口の約半数に 達するものでありますけれども、 1人1人の声が大きくないので、どちらかというと 潜在している状況であります。 潜んでいる状況であります。 しかし、ここに働きかける、そして、そこでの需要を 喚起するということは現実化できます。 そして、また働きかけることで、アクセシビリティという 社会課題の解決が実現できるわけです。 それによって、繰り返しますが 企業としての評価が高まるわけです。 しかし、これは一社ではできません。 例えば、日本版VPATがあったとしても 総務省が定めたとしても 1社だけがそれに対応して 自己評価を行い、結果を公表する。 他の社は、全くそれを使わないという状況であると 利用者の視点から見れば、 1社の日本版VPATの公表事実をいちいち調べに行くのは とても大変ということになって、 実際には使われないことになります。 日本版VPATの普及には、機器・サービス提供者が 互いに連携することが必要です。 また、先ほども申し上げたように、せっかくそういう 機器やサービスが誕生してきたのであれば 公共と民間が積極的に投入することで、市場を 拡大していくことが実現していくわけでございます。 他社との連携ということは、必要不可欠であります。 日本版VPATはすでに様式が定まったというふうに 申し上げました。 法制度も今、改正が進んでいると申し上げました。 しかし、そこで終わりではありません。 更なる改正、さらなる改良は進んでいくわけですので、 ルール形成も続くわけであります。 今日はまず第1に障碍者、高齢者、在留外国人等の アクセシビリティを必要とする人々の市場規模は 大きいということをお話をしました。 第2に日本全体が、今、デジタルトランス フォーメーションが求められていること。 それの中で、障碍者等を置き去りにしてはいけない。 誰一人取り残さないために、アクセシビリティ対応が 強く求められているということ。 そして、そのことには国会の理解も進み 改革法案の中に障碍者への対応を明記するという形での 修正が行われているということ。 また、障害者差別解消法の中に民生市場についても 今までよりも一段高い対応を求めるという 記述が出てきたということをお話をしました。 米国では、すでにそれにあわせて公共調達市場も 民生市場も動いております。 米国で公共調達の際の参照資料、参考文献として 利用されているVPATの仕組みが 日本でも導入されようとしております。 すでに様式はでき、2021年度からの活用が 進むところであります。 そして、このような社会的課題に対応していくことは、 企業の競争力を高めるということのお話をいたしました。 今日はどうもありがとうございました。