1. Office の進化
文書作成ソフト Word や表計算ソフト Excel に代表される Office 製品は、多くのビジネスシーンで活用されています。営業や事務職、企画職など、規模の大小、業界・業種に関係なくあらゆる企業に勤務する様々な職種のビジネス パーソンが文書を作成したり、数値データを管理したり、あるいはプレゼンテーションに活用するなど、もはやなくてはならないビジネス インフラとして認識されるに至っています。これまでにも数多くの同機能を持つソフトウエアやアプリケーションが登場してはきましたが、ここまで浸透しているツールは他にはありません。
1-1. Office の誕生
1993 年、すでに 80 年代から世界中のビジネス最前線で活用されていたビジネス ソフトウエアである Excel や Word を統合した最初の Office スイート「Microsoft Office」が登場。当時は、パッケージに入ったディスクを購入してインストールするという、“買い切り型”の“永続ライセンス版”というスタイルでした。その後、2007、2010……と継続的にバージョンアップを繰り返していきます。その最新版は「Microsoft Office 2019」として、今でも販売されていますが、この“永続ライセンス版”とはすなわち、一度購入したら、その後のバージョンアップや維持費用はすべて不要というものでした。
1-2. サブスクリプション モデルの登場
2011 年 6 月に「Office 365」が登場します。これはパッケージ版の「Microsoft Office 2019」と同様、Word や Excel、PowerPoint など、ビジネスに必要不可欠なソフトウエアで構成された Office スイートであるのは違いありませんが、そこに当時、大手企業を中心に少しずつ普及が進んでいたクラウド共有や保存、SNS 連携、Web 会議やモバイルワーク対応のツールが追加されていました。
さらに大きな変化として、サブスクリプション契約が登場。これまではパッケージで購入したり、ライセンス数単位で購入していたものから、月単位、年単位の仕様権の購入へと大きくスタイルが変わりました。
1-3. サブスクリプションが浸透した理由
サブスクリプションモデルとなって、契約期間内であれば、いつでも最新版をダウンロードして使用することが可能になった「Office 365」。また、一つのアカウントで最大 5 台のデバイスでも利用ができるようになりました。従来のように、事務所に設置したパソコンだけでなく、外出先でタブレットやノートパソコンで Office 製品を利用する人が増えつつあり、そういったビジネスシーンの変化を先取りした形でリリースされました。
また、欧米を中心に、音楽配信や映像視聴など、ビジネス以外のサービスにおいてもサブスクリプション モデルが増加しつつある時期であったため、世の中の理解も進んでいたように思います。ビジネス ソフトウエアの分野においては、この「Office 365」がいち早く、サブスクリプション モデルを採用し、新たなビジネス モデルをビジネス シーンに提起していました。
1-4. サブスクリプション モデルのメリット
サブスクリプション モデルとなった「Office 365」のメリットはいくつもありました。契約期間中は何度も最新の Office をインストールして利用できるため、サブスクリプション期間中に新しい Office がリリースされても追加費用なく使用することができます。確かに、買い切りの永続アカウント版も、軽微なバージョンアップはダウンロードにより可能でしたが、例えば「Microsoft Office 2016」を使用している時に「Microsoft Office 2019」に発売になっても、これは別なソフトウエアと認識され、別途ライセンス利用料が発生しました。
1-5. 予算管理が容易で保守も安心
サブスクリプション モデルの「Office 365」は月額の利用料金が決まっているため、大きな初期費用などが発生せず、メンテナンスや運用保守も、基本的には Microsoft が遠隔で実施するので、コストも抑えられると同時に、安心安全に運用することができます。特に情シスなど専門の担当者を置くことができない中小企業にとっては、その遠隔による保守は大きな安心感につながりました。また、経営者にとっては一定期間の固定費として予算管理ができるという利点もありました。
1-6. クラウド移行を躊躇した中小企業
一方で、永続アカウント版の「Microsoft Office 2019」からサブスクリプションモデルの「Office 365」への乗り換えは、多少のハードルがありました。クラウド版の「Office 365」を有効活用するためには、これまで蓄積してきたデータをクラウドに乗せておく必要があります。ところが中小企業の多くは当時、サーバー類をオンプレミスで運用するケースが多く、既存のメールサーバ、クラウドのメール サービス、ファイル共有サービスを含むグループウエアなど、既存のシステムのクラウド移行を躊躇せざるを得ませんでした。まだまだクラウドという社外環境に重要なデータを置くことに不安を感じる経営者が多かったのも確かです。
1-7. クラウドへの理解が浸透
ところがこの数年の間に状況は変わりました。安価で堅牢なクラウド サービスが登場し、セキュリティ ツールも充実し、一気にクラウドに対する安心感が広まっていきました。むしろ、オンプレミス環境にサーバーでデータを管理することの不安やトラブルの可能性がマスコミを通じて報じられるようになり、一気に風向きは変わりました。これまでシステムについてベンダー任せだった経営者もクラウド活用によるコスト メリット、安全性などを知り、クラウドの優位点をきちんと理解するようになりました。
1-8. 「Office 365」から「Microsoft 365」へ
2020 年 4 月、Microsoft のサブスクリプションサービス「Microsoft 365」が登場。当初は詳細が発表されていなかったため「Microsoft 365」は「Office 365」に代わる新たなクラウドサービスという受け止め方をされていました。現に、多くの IT 管理者が「Office 365」から「Microsoft 365」に完全に切り替わったと考えていたほどです。
ところが、その後発表されたサービス プランの内容を見ればわかりますが、サブスクリプション モデルのオフィス スイートのプランとして「Office 365」は変わらず存在し、「Microsoft 365」という名称のプランとは料金や含まれる製品/サービスなどが異なっていることがわかります。