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スタートアップ支援の事例

ブロックチェーンの可能性に魅せられたbitFlyer。彼らの人生を賭けた大いなる挑戦

bitFlyer Blockchain 代表取締役 加納裕三氏、取締役 CTO 小宮山峰史氏

2019 年 2 月にガートナージャパン株式会社が実施した「国内企業のブロックチェーンに関する意識調査」によると、調査対象企業の 65% がブロックチェーン技術の将来に大きな期待を寄せていると回答した。
さらにその回答者の多くが、いずれインターネット登場時に匹敵するインパクトをもたらすだろう、と予想している。
ブロックチェーンの気運が高まるなか、「ブロックチェーンで世界を簡単に。」をミッションとする株式会社 bitFlyer の創業者 加納裕三氏は、ブロックチェーン事業に集中するため、2019 年 5 月に株式会社 bitFlyer Blockchain(以下、bFB)を設立し、CEO に就任した。

世界最大級の仮想通貨取引所を運営していると同時に、ブロックチェーン業界を牽引する存在でもある同社は、いま何を考えているのか。
今回は、bitFlyer Blockchain の代表取締役 加納裕三氏(以下敬称略)、取締役 CTO の小宮山峰史氏(以下敬称略)にブロックチェーンの概要や、ブロックチェーン技術が秘める未来の可能性についてお話を伺い、創業以来続くマイクロソフトとの関係性についても伺った。

ブロックチェーンは、インターネット以来のパラダイムシフト

――ブロックチェーンについて、お二人の定義を教えてください。

加納 ブロックチェーンは、技術的には新しい概念のデータベースであり、社会的にはインターネットがそうであったように、社会構造を変えられる革命であると思っています。

bitFlyer Blockchain 代表取締役 加納裕三氏

bitFlyer Blockchain 代表取締役 加納 裕三氏

 

加納 インターネットがもたらした大きな変化は、コピーが簡単になったこと。それまでは文章を複製するには印刷機が必要だったし、その前は手書きで複写ですよね。インターネットならそれが右クリックで済んでしまう。
この変化に対応させる形で「コピーができない」という特徴も必要になってきたんです。今までのコピー防止策って暗号化なんですけど、暗号鍵を隠そうとしても、読み解く人が出てくるという“いたちごっこ”が続いてきました。しかし、ブロックチェーンはインターネット上で、「コピーができない」ことを実現した。これが大きな特徴ですね。

もうひとつの特徴は、ブロックチェーンは情報だけでなく価値を送付できるということ。「価値のインターネット」と呼ばれています。
情報はコピーして移動できますが、価値(デジタル化された預金や株、債券等)はコピーができたり、改ざんされては困ります。今までは、会社や中央銀行が独自システムの中に価値を閉じこめて管理することで安全性を担保していたため、瞬時に移動させることは難しく、取引の信頼性を第三者が証明する必要がありました。ブロックチェーンは、取引の改ざんを限りなく不可能にできる新しいデータベースなので、第三者の証明も不要になり、安全に価値の取引ができるようになります。

ブロックチェーンの革新性  Internet 【情報革命】  情報の簡単な複製が可能  誰でも簡単に 情報の発信が可能  データの即時取得が可能  Blockchain 【価値のインターネット】  価値の複製が不可能  誰でも簡単に 価値の送付が可能  データの信頼が可能

ブロックチェーンのさらなる特徴は「信用も伝えられる」という点にあります。
信用には、与えられる側よりも与える側の信頼性(権威)が高くなければならない、という法則があります。AさんはBという会社に勤めているから信用できそうといったように、多くの場合、個人よりも会社、一市民より政府、銀行よりも中央銀行の側に信用を付与する力がありました。

ところが、ブロックチェーンの世界は上下関係がなくなり、個人が個人を信用してもいいし、信用情報を共有できる。たとえば「KOL(キーオピニオンリーダー)のあの人が注目しているらしいから自分も見てみよう」といった状況はすでにあります。「個人の信用がインターネット上だけで伝わる」というところが新しさだと思います。

小宮山 新しいデータベースについて補足すると、インターネットはかつて「The Net」って呼ばれていました。各社のデータベースのネットワークがプライベートかつ閉じたものだったんですね。
ところがブロックチェーン技術が登場したことにより、今までばらばらだったネットワークがひとつに繋がったことで、すべての情報にアクセスできるようになりました。ブロックチェーンはいずれ「The Database」と呼ばれるようになると思います。
先ほど加納もお話した通り、「価値のデジタルデータ」はそれぞれ互換性のないシステムがデフォルトでした。

その常識をブロックチェーン技術は壊し、個人の信用情報までを守られた形で伝播できるようにしました。プログラマーの立場からすると、まさに技術的パラダイムシフトであったと言えると思います。

――お二人はなぜ、ブロックチェーンに興味を持たれたのでしょうか。

加納 2010 年にビットコインと出会ったのがきっかけです。前職で一緒だった人に「ビットコインって知ってる?」と聞かれてからサトシ・ナカモトの論文を読みました。
文中にブロックチェーンという言葉自体は出てこないのですが、このしくみはすごいと。ただ、すごいとは思うけど流行らないと感じていた記憶があります。
でも、頭の片隅には残ってたんです。なんとなく界隈の情報をウォッチしていると、2012 年まではまだまだおもちゃの領域でしたが、翌年には急に価値が 100 倍になっていました。技術的にも社会実験的にもおもしろさがあると確信し、2013 年に小宮山に「ビットコイン知ってる?」と同じ会話をふっかけて(笑)。

bitFlyer Blockchain 取締役 CTO 小宮山峰史氏

bitFlyer Blockchain 取締役CTO 小宮山 峰史氏

 

小宮山 ビットコインについては起業 1 か月前に教えてもらって、何もわからないままのスタートでしたね(笑)。加納とはもともと知り合いだったんですけど、ビットコインがどんな技術でもモノをつくるのは確かだから、何か一緒に生み出せたら楽しそうだと思ったのを覚えています。
徐々にビットコインのクローンなどをつくってみると、コード的にもすごいことだとわかりました。最初の 2 か月はオフィスもないから、四ツ谷のパン屋で二人して議論してはコードを書いてましたね(笑)

2014年設立 パン屋でプログラムを書く日々の写真

人間は創造的な仕事だけに集中できる社会をつくりたい

――bFB を設立された経緯について改めて教えてください。

加納 ブロックチェーン技術の開発についてはこれまで、株式会社 bitFlyer で続けてきましたが、法的規制業種の対応をしながら企業経営を同時並行で進めるのは、なかなかやり辛い部分がありました。それならば枠組み自体を変えたほうが良い、という結論になり、技術開発専門の会社として分社化したという経緯があります。

小宮山 分社化したものの、メンバーも変わらず仕事内容も取引先も同じですし、社名と名刺が変わったくらいです。

インタビューに応える加納氏と小宮山氏

加納 もともとホールディングスの下にファンクションごとか、リージョンごとに分社化して、グループ全体でひとつの会社のように振る舞えたらなと思っていました。

bitFlyer Holdings bitFlyer Blockchain bitFlyer bitFlyer USA, Inc.  bitFlyer EUROPE S.A. ブロックチェーン 事業  仮想通貨交換業 組織図

bitFlyer Holdings 組織図

 

会社という箱があるからそこで働くのではなく、働く人が集まって、自分たちがベストになるために会社という枠組みをどう変化させるかを考えたいと思っています。

――ミッションである「ブロックチェーンで世界を簡単に。」を具体的に進めていくための方策を教えてください。

加納 当社の事業ドメインは4つあって、ひとつは  BaaS  (Blockchain as a Service)。ブロックチェーンを利用したクラウ ドサービスの提供です。
次にジョイント ビジネス。ブロックチェーンを利用した共同事業のプロデュースで、大企業の単なる下請けではなく、自社開発のブロックチェーン「miyabi」を使って、他社の課題をともに解決したいと考えています。
3 つめは Blockchain Core R&D。収益ビジネスではなく、「miyabi」を中心とした研究開発を続け、4つ めの Non-Regulated Service(非規制領域におけるサービスの提供)にもつなげていきます。

4 つの事業ドメインの構成図

具体的には、ブロックチェーン上のビットコインのトラッキングツールなど、いろいろな場面で役に立てないかと考えています。
ビットコインは 6 年間運用実績があるのでノウハウがありますし、ブロックチェーンの開発実績もあってセキュリティ対応もできる会社は世界中に弊社以外ほぼないと思います。

――ブロックチェーンを使った業務の受託と聞いてもあまりイメージがわかないのですが、どのような依頼があるのでしょうか。

小宮山 大半は、ブロックチェーンの特性を説明して課題を探すところからスタートしますね。“ブロックチェーン=仮想通貨関連”というイメージが強いですし、ブロックチェーン業界は現在過渡期で、いわばカオスな状態です。
依頼主の実現イメージや課題を伺って、それならこういうところにブロックチェーンが使えますという提案をします。
ブロックチェーンの力はビットコインに収まるものではありません。私自身も、いろいろな分野に首をつっこみながら可能性を模索していきたいと考えています。

――お二人は、今後どのようなプロジェクトにコミットしていきたいですか。

加納 現在すでにスタートが決定しているのは、住友商事との不動産賃貸契約プラットフォームの共同開発です。
ブロックチェーンを活用して住宅の賃貸契約を電子化し、物件の内見予約から契約までを行えます。
今後も、当社のミッションに基づいて一般の方々のペイン ポイントを解決したいという想いがあります。基本的に、私自身が面倒くさがりなんですよね(笑)。無駄なことはしたくない。
ドキュメンテーション ワークも多すぎるし、飛行機ももっと簡単に乗れたらいいし、小売店舗などはロボットと AI とブロックチェーンに仕事させればいい。
人間はもっと人間らしい仕事をすべきだと感じています。人間らしい仕事というのは、短期的には何かを生み出せるエンジニアリングだと思うし、芸術や哲学といった分野になっていくと思う。
人間が創造的な仕事をできるように社会を効率化したいと思っていますし、私はブロックチェーンの分野でそれが実現できると信じています。

コミットするプロジェクトについて語る加納氏と小宮山氏

小宮山 インターネットは世界を確実に簡単にしたと思いますが、単独では限界があります。ですが、その上にブロックチェーンのレイヤーが乗ると、まだ何ができるか見えてはいなくとも、ブロックチェーンをベースにした創造が出てくると思います。
おそらく、「あらゆることを今より簡単にできるようにしたい」という気持ちが動機になると予想しています。
デバイスの進化、通信速度の速さがその希望を満たしてきたように、ブロックチェーンにしかできないことが必ずあります。
そして「こんな場面でブロックチェーンの特性が生かせる」と提案できるのが bFB だと思っています。あらゆる分野を変革していきたいですね。

加納 特に金融エリアはブロックチェーンの特性と親和性が高いと思っています。
私は前職でトレーダーとして、ありとあらゆる金融商品を触ってきました。金融は極言するとシステム上の数字でしかないバーチャルの世界。
数字が並んでるという意味では、エクセルの世界なんです。それをブロックチェーンで置き換えられたらと思います。

小宮山 補足をすると、弊社の「miyabi」はそれを実現するものだと思っています。つまりエクセルで例えると、今は交換可能なものがビットコインだけで、縦軸(列)しか存在していません。ですが、ビットコイン以外のモノを横軸(行)とすれば、偽造が出来ないという特性を守りつつ、ブロックチェーン技術でその交換可能な横軸を広げていけます。その広がりをいかにつくるかというのが、私たちの挑戦だと思っています。
数字だけじゃなくてモノが交換できるようになる。「miyabi」はまさにそういった考えを体現するシステムだと思います。

加納 あるものを自分のものだと証明するためには、ログインのパスワードを入れたり、第三者にそれが正しいと証明してもらわなければいけません。ですが、一つひとつのものに誰もが認める自分だけの証明書が付いていれば、誰かに承認を求める必要がないわけです。つまり、当事者同士で交換可能なマーケットが生まれる。

小宮山 まさに銀行の預金業務を代替する例が代表的ですが、中央集権的な価値の承認が不要な社会インフラの実現を、ブロックチェーンは可能にします。
「これは誰のものか」という最もコアな部分をブロックチェーンは担っているので、これほど重要視されているわけです。

――現時点でお二人が思い描く未来は、何パーセントくらい実現していますか?

質問に回答する加納氏

加納 実現度で言うと 1% くらいだと思います。
ブロックチェーンのインフラを作っている会社というのは、いま弊社を含めて20社程度しかなく、まだまだインパクトは小さい。その他いま存在しているブロックチェーン事業者の多くは、インフラを活用したアプリケーション事業の会社です。
そういった会社が今後より増えていくことが予想されるので、彼らとは連携していきたいですね。
今やるべきこととしては、グループのオーナーとして全体のバランスを見ながら、どのように成長させていくかを考えることだと思っています。

小宮山 今はブロックチェーン技術の活用が仮想通貨の領域に留まっているので、発展の可能性は無限にあると思っています。
そして次の応用先を増やすためにも仲間というか、一緒に事業を創っていけるパートナーが欲しいですね。
私たちも当然のことですが、プロである領域は一部です。それ以外の部分に関しては、誰かに頼らなければいけません。そうした時に、ブロックチェーンをうまく活用してもらえるパートナーがいればなと。
私たちにとって倒すべきは既存のシステムであって、ブロックチェーン事業をしている会社は基本的に皆仲間だと思っています。それがジョイントビジネスを行う理由ですね。

逆算をしながら時代をつくる

――bitFlyer が国内最大の仮想通貨取引所に成長できた最大要因は何だと思われますか。

加納 時代をつくる、と本気で考えてきたからだと思います。
次の時代に何が当たるのか? ブロックチェーンなのかAIなのか、そういったことを見極めるというのが最初の作業です。そしてそれと同時に次に当たるモノのタイミングを見計らい、当たるであろうポイントから 1〜2 年のスパンで事業を前倒して、自分たちの良きタイミングで事業をそこに合わせる。それが時代をつくるということだと思います。

私はいまのベンチャー界隈について、世の中を変えたいと思っている人がどれくらいいるのだろう? という疑問があります。BtoB ツールを開発して、数億円でバイアウトして六本木で豪遊という志の低さでは、到底日本を変えることはできません。起業家ならば、世の中を変えることに喜びを覚えるべきです。
もちろん私も、絶対に成功する確信を 100% 持っているわけではありません。ですが、その志は持つべきではないかと思います。
これまでの素晴らしい起業家と比べて、次の時代をつくっていくために私たちが持っているものは時間です。
思い描くゴールから逆算して会社をつくり、さらにブレイクダウンして日常の業務に落とし、日々やるべきことを明確にしていく。全てにおいて一貫性を持ち、デザインをして世の中を変える。それが私のやりたいことです。

笑顔でインタビューに応える小宮山氏

小宮山 私も起業当初はビットコインのこともよく知らなかったのに、ここまで来られたのは、大きな設計図で今を見越していたからかなと思います。
システム面において、開発を一つずつ進めていく上でトラブルが起きたとしても、大規模な事業を想定して設計していたので乗り越えてこられました。
莫大な通信量が途中から増える可能性を見越していたという意味では、当初からクラウド サービスを利用して bitFlyer の構築を始めたのも今思えば良かったなと。

創業初期を支えたマイクロソフトのスタートアップ支援プログラム

――bitFlyer の開発は Microsoft Azure を使われたんですよね。

小宮山 2014 年の初めから Microsoft Azure を活用しています。私はずっとC#を使ってきたので、正直に言うとあまり意識せずに Microsoft Azure を選んでました。
サーバーを置く場所どころかオフィスもなかったので、クラウド サービスであることは絶対条件でした。
当初は社員も 2 人だけだし、メンテナンスをする余裕もない。スタートアップ支援「Microsoft BizSpark(現 Microsoft for Startups)」にも助けられました。

――スタートアップがマイクロソフトのサービスを使うメリットはどのような点にあると思いますか。

加納 PaaS(Platform as a Service)のサービスをどこよりも早く出していた実績も評価できますし、シームレスにデプロイ作業が出来るという点も素晴らしいと思います。また信頼性やセキュリティ面でも安心感がありますね。
C# も簡単に書けると、小宮山さんもよく力説してますよね。

小宮山 C# という開発面で安定性のある言語でディベロッパーの心をつかんでいると思うし、Microsoft Azure を使いたい人は多いと思います。
ディベロッパーはひとつ上の抽象的な概念をつくってまとめたがる傾向があります(笑)
そういうディベロッパーには、C# は使いやすい。しかも、Microsoft Visual Studio (.NET) といったサービスが 10、20 万円で利用できるなんて破格です。
その他にも、技術力の向上や営業面、マーケティングと広範囲に支援を受けられるので、資源のないスタートアップのパートナーとして心強かったです。

人々の生活を便利にすることに人生を賭けたい

――今後実現していきたい世界を教えてください。

小宮山 私は直近の目標としては、miyabi のパフォーマンスを上げていきたいですね。まだまだチャレンジできることがたくさんあるので。
分野によって「ブロックチェーンがうまく使えないね」となった場合、解決しなければいけない大きな問題から小さな諸問題の解法を見つけ、ブロックチェーンの可能性を押し広げたいです。
そうして新しい技術が社会実装されいく中で、自分にしか発信できないことを伝えていくのが、技術者としての使命だと思っています。

加納氏近影​

加納 きちんとマーケットをつくり、日本のブロックチェーン産業を盛り上げて世界で戦えるようにしていきたいです。
自分の子どもたち世代が低賃金や格差で苦しむなんて許せないと強く感じます。アンフェアな世界を変えて、誰もが頑張りを正当に評価され、人間的な生活を送ってハッピーになれる世界をつくりたいし、つくれると本気で信じています。
ブロックチェーンでお手伝いできることはたくさんあります。金融分野でもまだまだやれることがあるし、技術の向上だけでなく法体系もさらに整備を進めていきたいですね。
そのためにも「ブロックチェーン元年」というフレーズを連呼して、情報発信をすることでムーブメントをつくろうとしています。
ブロックチェーンを使ったサービスを具現化し、社会実装まで持っていき、人々の生活を便利にすることに人生をかけたい。これは生き様ですね。20 年後、このインタビューを見て振り返った時に、この時の頑張りで社会を幸せにしたんだと思えるようにしたいです。

 

※本記事は AMP (2019/12/3) からの転載です。