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2023/09/01

プログラム未経験者によるアプリ開発がデジタルシフトを加速。現場の力が農業の未来をリードする

ホクレン農業協同組合連合会(以下ホクレン)は、北海道内の JA が出資し、JA の経済事業を担うことを目的として設立された組織です。「つくる人を幸せに、食べる人を笑顔に」を掲げ、生産者の営農活動支援および消費者への食の安定供給を責務として、1919 年の創立以来さまざまな事業活動を通して、北海道の農業と農業者の発展を支え続けています。

ホクレンではトップダウンの DX 推進計画が進められる一方で、現場発信のボトムアップで Microsoft Power Apps を用いた市民開発による業務効率化の機運が醸成。双方が融合することで会内 DX を活性化しています。

HOKUREN Federation of Agricultural Cooperatives

基幹システムの老朽化をきっかけに DX 推進計画を策定

他の多くの企業・団体と同じく、デジタル技術の導入やその活用による DX の推進は、ホクレンにとっても取り組むべき大きなテーマとなっていました。特に基幹システムの再構築は積年の課題だったと、ホクレン農業協同組合連合会 代表理事常務の今成 貴人氏は語ります。

「ホクレンの基幹システムは 1996 年から稼働しており、老朽化と度重なる改修による複雑化・肥大化が進んでいました。開発に使われているプログラム言語も旧世代のもののため、扱える技術者も減ってきており、このままでは、いわゆる“2025 年の崖”に落ちかねないと危機感を抱いていました」(今成氏)。

そこでホクレンは、2020年にDX推進計画を策定。三本の柱として、「基幹システムの再構築」「農業DX」そして「組織のデジタルシフト」を掲げて10年計画でDXを進めています。2022年に制定した長期ビジョン「Vision2030」においても、”めざす姿”の実現に向けてDXを重点取組項目として位置づけています。

基幹システムの再構築では段階的に会計や購買などのシステムを刷新する計画が立てられており、農業 DX では衛星から受信した高精度位置情報などを生産者へ提供するシステムの活用推進、地理情報システムの整備・展開による圃場データの活用推進などを掲げています。

そして組織のデジタルシフトでは、2018 年に導入済みの Microsoft 365 の活用や RPA(Robotic Process Automation)による業務効率化、ペーパーレス化などを通した業務の見直しを進めています。

リーダーの旗振りとコロナ禍によりデジタル化の流れが加速

今成氏によると、こうした取り組みが活発になったのは、代表理事会長である篠原 末治氏による旗振りの効果が大きかったと言います。

「会長の篠原は、道内でも先駆的に農業 DX に取り組んできた士幌町農協の出身ということもあり、2020 年に着任してすぐに“外から見ているよりデジタル化が遅れている”と 感じDX への速やかな取組の検討を指示されました。そこで、私たちも本気で取り組まなければと、思いを新たにすることができました」(今成氏)。

さらに、同じタイミングで新型コロナウィルス感染症の流行が始まり、出勤制限を余儀なくされたホクレンでは、Microsoft Teams による Web 会議やリモートワークを導入。一気に会内の流れがデジタル化に傾きました。

「全道各地の理事の皆さんが札幌に集まって、月に1回ほどの頻度で開催されていた理事会もリモートで行われるようになったのですが、コロナ禍以前であればとてもそんな発想には至らなかったと思います。今では会内のやり取りのほとんどが Teams のチャット機能を使って行われるなど、Teams は業務に欠かせないツールとなっています」(今成氏)。

ファースト ステップとしてデジタル シフト推進チームを立ち上げ

「とはいえ会内には、まだまだアナログなやり取りがたくさん残っており、ハンコや紙の文化は根強いものがあります」と現状を語るのは、ホクレン農業協同組合連合会 管理本部 経営企画部 部長の長内 和彦氏。

「まず自分たちの仕事のやり方が変わることがDX推進のファーストステップ」(長内氏)という認識のもと、2022 年から「管理本部内デジタルシフト推進チーム」を立ち上げ、組織のデジタルシフトの加速に取り組んでいます。

「同じ管理本部内でも縦割りの性格が強く、以前から隣の部署がなにをやっているのか見えにくいという課題もありましたので、デジタルシフトと同時に横のつながりも深められるようにと、各部署から若手を集めた“業務の困りごと相談会”から活動を始めました」(長内氏)。

こうして生まれたデジタルシフト推進チームのチーム リーダーとして白羽の矢が立ったのは、当時文書管財課に所属していた、ホクレン農業協同組合連合会 管理本部 経営企画部 企画課 主任技師の大澤 乃輔氏でした。

自発的なデジタル化推進活動を認められてリーダーに抜擢

長年農業機械の推進業務に携わってきた大澤氏は、3 年前まではそれほどデジタルに詳しいわけではなかったといいます。

きっかけはコロナ禍のリモートワークでした。当時大澤氏は子会社や関連会社の管理を行う農機燃自総合課に所属しており、出勤制限がかかっている状態では、できる業務が限られていたそうです。

「やるべき業務を終えて、なにか仕事に使える情報はないかと YouTube を眺めていたところ、Excelの新しい関数や Microsoft 365 のアプリケーションに関する動画に辿り着きました。そして Power Apps によるアプリ開発動画を見たときに、“これらを使いこなせれば、きっとたくさんの業務を効率化できる”と直感したんです」(大澤氏)。

もともと「二度手間が大嫌いで手書きや手入力はなるべくやりたくない」性格だったという大澤氏。さっそく Power Apps を操作してみたものの、必要に迫られていなかったこともあり、アプリの完成までは至りませんでした。「アプリの残骸ばかり残りました」と苦笑いする大澤氏ですが、この経験から多くの知識を得ることができました。

せっかく得られたこの知識を生かそうと、大澤氏は上司に許可をとり、会内有志に向けてPower Apps や Teams の使い方、クラウドの知識、Excel の関数などに関する情報発信を始めます。

この取り組みは次第に拡大し、開始から 1 年後には、大澤氏は外部から講師を招聘したり自ら登壇したりと、会内 DX の啓発活動の中心を担う立場に。その活動を評価され、デジタルシフト推進チームのリーダーに任命されたのです。

現場のニーズをもとにアプリの市民開発に挑戦

こうして会全体の DX を進めることになった大澤氏ですが、並行して「現場発信の DX」をリードする役割も担っていました。

大澤氏は、2022 年度から文書管財課へ異動。文書管財課はその名の通り、会内外の諸手続きに用いられる紙の文書や郵便物を取り扱う部署です。大澤氏が着任したときには、デジタルシフトの一環として電子決裁システムが導入され、稟議フローのデジタル移行が済んだタイミングでした。

「紙によるやりとりが当たり前だった本会にとっては、電子決裁システムの導入はインパクトがありました。とはいえまだ紙の帳票類は多く、非効率的な作業もたくさん残っていました」と振り返るのは、文書管財課で 8 年間勤務しているホクレン農業協同組合連合会 管理本部 文書管財課の阿部 美咲氏。

大澤氏は着任早々、阿部氏とともに業務要領やマニュアルの一元管理に取り組むことになります。当時、業務要領やマニュアル類がポータル内に散逸保管されており、検索に時間がかかることが問題となっていました。

「これくらいなら Excel の関数を使えば簡単につくれるだろう」とシステム開発を引き受けた大澤氏でしたが、その方法では検索できないことがわかり、頓挫してしまいます。そこで、一度は挫折していた Power Apps を使う方法を思いついて再チャレンジしたところ、市民開発アプリ「要領検索アプリ」の開発に成功しました。

「今見返すと、基礎的な技術しか使えていませんね」と謙遜する大澤氏ですが、要領検索アプリは現在 1 日 80〜100 回の利用があり、検索にかかっていた工数を大幅に減らす効果を発揮しています。

この成功で自信を得た大澤氏は、阿部氏らに普段の業務での困りごとを挙げてもらい、「まずは全会的な影響度が少なく、スモール スタートできる業務から効率化しよう」という方針で、「文書保存箱管理アプリ」の開発に着手しました。

このアプリは、倉庫や書庫などに保存されている文書の入出庫の際に、「手書きの申し込み内容を、文書管財課の職員がさらにExcelに転記して運送業者に依頼する」という極めてアナログな業務をデジタル化するものでした。

プログラム未経験の職員がつくったアプリが組織全体を動かす

大澤氏は要領検索アプリの経験を生かしてアプリを試作し、阿部氏に引き渡しました。

ここで大澤氏が予想していなかった展開が起こります。大澤氏がアプリをつくる過程を近くで見ていた阿部氏が、自発的に Power Apps を使ってアプリを改修し始めたのです。

「自分が担当していた業務なので内容は全部把握していましたから、“ここにこう(コードが)書かれているから、こんなふうに動くんだな”ということは推測できたんです。そこから、“じゃあこう書き換えたらこう変わるはず”といったふうに、パズルを解くような感覚で習得していきました」(阿部氏)。

プログラミング経験はまったくなく、当時は Power Apps というツールの存在すら認識していなかったという阿部氏でしたが、最初は UI を整える程度の改修から、最終的には Teams と連携させて依頼の通知が届く構成にしただけでなく、アプリ本体や手順書などの Teams への一体化まで、すべて自力で成し遂げました。

こうして「案外自分に向いているかも」とアプリ開発の魅力に目覚めた阿部氏は、文書保存箱管理アプリの開発から 3 ヶ月ほど経ったある日、「こんなものをつくってみました」と大澤氏にアプリを披露。その完成度に、大澤氏は大いに驚いたといいます。

阿部氏がつくったのは、各部署から上がってきた業務報告のメールやチャットに添付されているファイルを取りまとめ、ファイル名の統一や督促を送るといった報告作業のほとんどを自動化する「報告アプリ」でした。

「このアプリはとてもよくできていて、ファイルの一元管理や報告の督促管理など、煩雑な業務の悩みが一気に解決できるものでした。阿部は Power Apps についてよく質問に来ていましたし、なにかやっているな、とは思っていたのですが、まさかここまでのものをつくり上げるとは、本当に驚きました」(大澤氏)。

現場の業務を最も理解している職員が、その業務を効率化するために自らアプリをつくり上げるという、市民開発の理想的な姿がそこにはありました。

この報告アプリは、文書管財課内での試験運用を経て、現在は全会的な展開を視野に入れ、各部署の報告業務の洗い出しとアプリ改修を行っているとのこと。ひとりの職員が自分たちの業務を改善するためにつくった市民開発ツールが、組織全体を動かすことになったのです。

市民開発の流れは加速し、多くの事例が誕生

その後、市民開発の流れはさらに加速していきます。大澤氏がリーダーに任命され、各課から選ばれた人材を対象に開催していたデジタルシフト相談会の参加者が、阿部氏に触発されて続々とアプリ開発に挑戦し始めたのです。

「驚いたのは、“自分もやってみたい”と手を挙げた職員には若手の事務担当者が多かったことです。阿部もそうですし、人間ドックの受付自動化アプリを開発したのは人事課の 2 年目の職員でした」(大澤氏)。

この動きは長内氏たちも予想外だったといいます。

「私たちは、もう少し上席の役職者が DX をリードしていく姿を想定していました。ですが、まず現場職員からその動きが始まった。日々の定型業務を担っているのは彼らなのだということに、改めて気付かされました」(長内氏)。

Power Apps の活用を開始してから 1 年ほど経った現在では、人材開発課による「研修申込・課題提出アプリ」や法務コンプライアンス課の「法務関連相談依頼アプリ」、統括課による「内部監査指摘検索アプリ」など、大澤氏が把握しているだけでも 15 個ほどの市民開発アプリが稼働しています。

基幹システムに比肩する効果が見込まれる市民開発

「まずはアプリの数とデジタル人材を増やしたいと思っています。デジタル人材が主導して業務を効率化し、周りの職員がデジタル化の効果を実感することで、組織としてデジタル化を定着させられれば」と大澤氏。2025年度末までに100名のデジタル人材育成と100個のアプリ開発を目指します。

また、いずれはアプリでデータを蓄積して AI で分析を行い、チャットボットの導入や業務の効率化に取り組みたいと、技術的にもさらなる高みを見据えています。

「これまでは Word や Excel、PowerPoint、Teams が使えれば十分だと思っていた職員たちが Power Apps に触れて、”まだまだ自分たちは Microsoft365 を使いきれていない”と気づいたのはいい傾向」と語る長内氏は、「この市民開発の取り組みは、縦割りの垣根を超えて全会的なポテンシャルを伸ばす機会になるはず」とデジタル化以外の効果にも期待を寄せます。

1996 年に稼働を開始した現基幹システムの構築に携わった経験を持つ今成氏は「30 年前にはシステムは外注が基本で、こんなことは考えられませんでした」と、市民開発による「草の根 DX」の可能性について語ります。

「基幹システムが担う部分から漏れる業務は莫大にあります。そこのシステム化を外注するとなると、とてつもないコストがかかってしまう。ですから、それを市民開発で補えることは、非常に大きなメリットとなり得ます。もしかすると、基幹システムの再構築より効果は大きいかもしれません」(今成氏)。

道内の農業生産者を支援し、農畜産物を安定的に消費者に届けることを使命とするホクレン。今後デジタル技術の導入が進むことが予測される農業界をリードするために、経営層のぶれない指針とミドル層の的確なリード、そして現場職員の自発的な行動によって、基礎となる会内のデジタルシフトを着実に進めようとしています。

高所から見渡して、現場の声を大切にする。その理念は圃場を守り育てていく農業の理念とも合致するものです。ホクレンはきっとこれからも、生産者と消費者を第一に考えた組織であり続けてくれることでしょう。

“基幹システムが担う部分から漏れる業務は莫大にあります。そこのシステム化を外注するとなると、とてつもないコストがかかってしまう。ですから、それを市民開発で補えることは、非常に大きなメリットとなり得ます。”

今成 貴人 氏, 代表理事常務, ホクレン農業協同組合連合会

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