1922 年に創業し、総合化学メーカーとして世界の人びとの “いのち“ と “くらし“ に貢献し続けている旭化成株式会社。同社では DX で目指したい未来像が全社で共有されており、実現に向けた人財育成が積極的に進められています。その一環として行われているのが、DX プロフェッショナル育成のための Microsoft Power Platform 活用です。2022 年 3 月に人財育成カリキュラムの中に Power Platform のコースを追加。ここで学んだ人財が自分自身の業務現場で業務の自動化や効率化に取り組んでいるのです。宮崎県延岡地区の工場では、複数のプロジェクトによって業務時間の大幅な削減に成功。2023 年 7 月には「Power Platform AKademy (アカデミー)※1」もスタートし、Power Platform を使える人財の裾野をさらに拡大しつつあります。
※1 「Academy」と旭化成 (Asahi Kasei) の「AK」を組み合わせた造語。
デジタルプロフェッショナル人財への入り口として Power Platform を社内開放
2016 年ごろからさまざまな形でデジタル導入を進めてきた後、2020 年に全社規模での DX が始動した旭化成株式会社 (以下、旭化成)。DX を通じて目指したい未来像を経営陣が提示し、約 8 か月かけた社内議論を行ったうえで、2021 年 5 月に「Asahi Kasei DX Vision 2030」として DX ビジョンを全社共有しています。そのロードマップでは、2018 ~ 19 年を「デジタル導入期」、2020 ~ 21 年を「デジタル展開期」、2022 ~ 23 年を「デジタル創造期」とし、2024 年からは全従業員がデジタル人財となる「デジタル ノーマル期」と位置付けています。このロードマップの実現を後押しするため、2021 年 4 月にはデジタル共創本部も設置されています。
「デジタル ノーマル期には “全従業員がデジタル活用のマインドセットで動く” ことを目指す一方で、DX を牽引するデジタルプロフェッショナル人財を 2,500 人にすることも重要な目標になっています」と語るのは、旭化成 デジタル共創本部 IT統括部 基盤システムグループでグループ長 プリンシパルエキスパートを務める犬塚 貴志 氏。そのために、従業員の DX スキルを認定する「旭化成オープンバッジ制度」を導入、レベル 1 ~ 5 に分けた人財育成を進めていると説明します。
「レベル 1 ~ 3 は主に e-ラーニングで IT や DX の基礎を学び、実際にデジタル技術を活用して業務改善できる人財をレベル 4 に認定しています。デジタル共創本部の重要な役割の 1 つは、レベル 3 の人財をできるだけ多くレベル 4 に引き上げることです。このような人財の裾野を広げていくため、2023 年 11 月現在レベル 3 では 11 コース、レベル 4 では 7 コースを用意し、それぞれのレベルにノーコード/ローコード開発のカリキュラムを組み込んでいます」。
ここで使われるノーコード/ローコード開発ツールとして採用されているのが、Power Platform です。その理由を、旭化成 デジタル共創本部 IT統括部 基盤システムグループ 活用推進チームでチームリーダーを務める関口 達彦 氏は、次のように説明します。
「Power Platform はシステム開発の経験がない従業員にとっても理解しやすく、アプリケーション開発の入り口として最適なツールだと評価しました。これで業務改善に向けた意識を高めてもらうことで、その後のナレッジやスキルの蓄積も容易になると考えています。またマイクロソフトの支援が手厚く、既に Microsoft 365 E3 を全社導入していたため、先ずはその利用範囲から使い始められたということも導入の後押しになりました」。
その導入プロセスについて「2021 年秋には全社で使えるようにPower Platform の利用を開放し、2022 年 5 月に IT 全般の基礎知識を学ぶオープンバッジ レベル 3 のコースの 1 科目として Power Platform 入門コースを追加しました」と説明するのは、旭化成 デジタル共創本部 IT統括部 基盤システムグループ 活用推進チームで課長代理を務める東 祐子 氏。ここから一気にユーザーが増えていったと振り返ります。「さらに 2023 年 5 月には、レベル 4 のコースとして Power Platform 活用のためのコースを開講。現在までに 14 名のレベル 4 人財が誕生しており、それぞれが自分自身の業務で、Power Platform を活用した業務改善に取り組んでいます」。
工場では安全業務の効率化を実現、帳票レポートの BI 化も推進中
それでは具体的に、業務現場でどのようなアプリケーションが開発されているのでしょうか。旭化成 デジタル共創本部 スマートファクトリー推進センター プラットフォーム技術部 システム技術グループのグループ長として、工場 DX 支援をリードしている藤敦 渉 氏は、工場内での活用事例として「Power Platform を活用した安全活動改革」を紹介します。
「工場ではさまざまな安全業務が行われていますが、以前は ”ヒヤリ・ハット” をマイクロソフト以外のツールで登録し、さらにそのデータの集約やレポート作成を他の BI ツールや Microsoft Excel で実施、工場内で共有していました。この “ヒヤリ・ハットの登録、収集”、”分析、全体活用”、”周知、個別活用” という 3 つの安全業務を Power Platform 上でまとめることで業務効率化を実現し、約 1,400 時間/年を創出しています。また、安全への感度を高めるうえでも大きな貢献を果たしています」。
さらにその詳しい内容については、延岡地区工場での取り組みを現場従業員と共に進めている、旭化成 デジタル共創本部 スマートファクトリー推進センター 延岡情報技術グループの西澤 悠大郎 氏が、次のように説明します。
「まず工場内のヒヤリ・ハット登録を Microsoft Power Apps で作成したアプリケーションで統合。集約・レポーティングは Microsoft Power BI で自動化しています。さらに、これまで月次で行われていた共有業務を、Microsoft Power Automate と Microsoft Teams の組み合わせで自動化。これら一連のしくみによって、発生したヒヤリ・ハットを即時共有し、改善アクションの高速化に繋げています。また、ヒヤリ・ハットを工場の敷地図にマッピングする機能も実現しており、安全パトロールでも使いやすいと、ユーザーから高く評価されています」。
その一方で Power Platform 自体も、自らの力で業務の自動化かつ効率化を実現した現場ユーザーから高く評価されていると言います。
「Teams や Microsoft Outlook といったグループウェア製品との親和性が高いため、情報の連携や共有の実現が容易です。また動くアプリケーションを短時間で作成できるため、業務自動化および効率化の形を上司や同僚に理解してもらいやすいことも大きなメリットです。実際に最初のプロトタイプは、わずか 1 週間で作成されています」 (西澤 氏)。
この他にも延岡地区では、Power BI の活用による「工場帳票レポートの電子化」も行われています。その開発には 10 名の従業員が参加しており、約 50 帳票を BI 化/統廃合することで、約 5,000 時間/年の時間を創出。今年度末には 10,000 時間/年の創出を目指していると言います。なお開発に参加した 10 名は、現在は DX アンバサダーとして活躍しています。
自分自身で「DX の武器」を活用することで、大きく変化しつつある従業員の意識
「オープン バッジのレベル 4 認定のためには、自分で作成した業務改善事例を社内ポータルに掲載する必要がありますが、その中には現場業務の『ちょっとしたこと』を自動化している案件が多いです」と関口 氏。そのため定量効果も測定しやすく、自分たちが作成したアプリケーションの意義も実感しやすいと言います。
これに加えて犬塚 氏は「実際に自分自身でアプリケーションを作成することで、従業員の意識も大きく変化していくようです」と言及。自動化/効率化に貢献する武器を手に入れ、それによって作成したアプリケーションが他の従業員から感謝されることで、課題解決へのモチベーションが高まっていると言います。「DX の目標は事業の変革ですが、そのためには人や組織が変わる必要があります。自分たちで自動化/効率化できるのだという意識が現場に根付いていくことで、DX を前進させやすくなると感じています」。
また東 氏は、製造業界だけを見てもユーザー企業が多く、他業種も含めたユーザー企業間のコミュニティで情報交換できることも、Power Platform の大きな魅力だと指摘します。「旭化成もユーザー企業間のコミュニティに幹事企業として参加していますが、2 週間ごとの幹事メンバー ミーティングで、悩みや解決策を共有しています。幹事会やコミュニティ内のイベントでは TTP (徹底的にパクる) を共通理解に、他社のいいところをお互いに真似し合いながら、共に業務変革に向けた活動に取り組んでいます」。
Power Platform の活用をさらに拡大するため、2023 年 7 月には「Power Platform AKademy」もスタート。旭化成 デジタル共創本部とマイクロソフトとの協業によって、業務現場の開発者を支援することで、モノづくり (アプリケーションづくり) を後押ししています。その具体的な内容は、まず「学習編」としてマイクロソフトが制作した動画で Power Platform のユースケース、そしてモデル駆動型アプリを含むフル機能について学び、9 月からの「実践編」で社内ハッカソンを開催、実際のアプリケーションを作成していくというものです。また「学習編」を機に、Power Platform を更に身近に感じ活用してほしいという思いで、初心者向けハンズオンをリアルタイム/オンラインで計 6 回開催。最後は 12 月下旬にアプリケーション発表会を開催し、ここに経営層も参加することになっています。さらにこれを機に、経営層への報告や対話も強化していく予定だと言います。
「ツール利用を開放しただけではなかなかユーザーに浸透していきませんが、マイクロソフトのこのような支援によって、使う人の裾野が広がりスキルも向上しています」と犬塚 氏。今後は Power Platform に追加された「Microsoft Copilot」も取り入れ、どんどん業務現場に使ってもらいたいと語ります。「Power Platform を知っているユーザーであれば、Copilot も使いこなせるはずです。これを後押しするため、マイクロソフトにはこれからも継続して、サポートをお願いしたいと考えています」。
“実際に自分自身でアプリケーションを作成することで、意識も変化していきます。自動化/効率化に貢献する武器を手に入れ、それによって作成したアプリケーションが他の従業員から感謝されることで、課題解決へのモチベーションが高まっています”
犬塚 貴志 氏, デジタル共創本部 IT統括部 基盤システムグループ グループ長 プリンシパルエキスパート, 旭化成株式会社
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