訪問介護事業からビジネスをスタートし、現在では「総合福祉企業」へと発展している株式会社ケア21。同社では介護サービスを支えるシステム「CAREログ」シリーズを Azure の PaaS によって自社開発しています。その開発をリードしているのは、介護の現場を知り尽くした社員。その本人自身は IT に詳しいわけではありませんが、「一緒にやっていこう」という意気込みの強い開発パートナーと共に、「システム屋の常識ではなく使う方の立場で作る」というスタンスを貫きながら、アジャイルな開発が進められています。2022 年 8 月には、主力事業である訪問介護のためのシステム「CAREログST/CAREレポ」をリリースし、ヘルパーとのやり取りの完全ペーパーレス化と、年間 10 万時間を超える業務時間削減を実現。今後も Azure の PaaS を積極的に活用しながら「CAREログ」シリーズの機能拡張を進めていく計画です。
「デジタル化は最終的には人への投資になる」という社長の熱意から「CAREログ」シリーズの社内開発へ
「100年続くいい会社」を目指し、1993 年に訪問介護事業からビジネスをスタートした株式会社ケア21 (以下、ケア21)。現在では居宅介護支援や介護付有料老人ホームなどの高齢者福祉サービスを軸に、障がい福祉サービス、保育サービス、給食サービス、医療分野における各種サービスなどを展開する、総合福祉企業へと発展しています。運営している事業所数は約 630 か所。「さまざまなサービスを求めているご利用者様に応えたい」という想いを、日々のビジネス活動を通じて具現化し続けています。
これらのサービスのうち、主に介護に関する各種サービスをデジタル技術で支えるために自社開発しているのが、「CAREログ」シリーズです。その開発経緯について、ケア21 取締役 事業戦略本部長を務める花岡 健太郎 氏は、次のように説明します。
「当社ではこれまでもさまざまなシステムを作ってきましたが、介護システムに関しては開発の労力を回避するため、9 年前にパッケージ製品を導入しました。しかし社内の複数のシステムとの連携が難しいうえ、業務現場からも不満の声が上がっていました。この声を当社の社長が聞き、関連業務を 1 つのシステムで完結できるようにしようと考えてスタートしたのが、CAREログシリーズの開発です」。
自社開発するに至った背景には「デジタル化は最終的には人への投資になる」という、社長の熱意もあったと花岡 氏。また自社に最適なデジタル化は、業務現場をよく知る自社社員がリードする形で進めていくしかない、という想いも強かったと言います。
このような想いを叶えるため、社長が直々に開発リーダーに任命したのが、現在はケア21 事業戦略本部 事業推進4課 システム開発推進チームに所属する桑山 八枝子 氏です。同氏は 2003 年にホームヘルパー資格を取得してケア21 に入社し、訪問介護事業所での勤務をスタート。その 2 年後には同事業所の管理者に就任し、事業所の運営や職員の育成に携わってきました。その後も、社内職員向けの教育担当、ケアマネージャー向けの研修講師、全事業所の調査および指導などの仕事を歴任。介護の現場を知り尽くした人物なのです。
「私は介護の仕事や会社の変遷、その中でどういうシステムが求められているのか、ということはよくわかっていますが、自分で IT システムを開発することはできません」と桑山 氏。そこで選んだのが、IT のプロと一緒に開発を進めていくというアプローチなのだと言います。2019 年にはシステム開発に向けた検討を開始し、複数のシステム開発会社に相談。そのうえで開発パートナーに選ばれたのが、モダンケアテクノロジー株式会社 (以下、モダンケアテクノロジー) でした。
「モダンケアテクノロジーはまだ設立されたばかりの会社でしたが、私たちと一緒にやっていこうという、強い意気込みが感じられました」と花岡 氏。そこで、パートナーして採用すると共に、ケア21 からの出資も決定、現在も継続して「CAREログ」シリーズの開発および運用に参加してもらっているのだと言います。
「柔軟性の高い環境」と「効率のいい開発、デプロイ」のため、Azure の PaaS を活用
このモダンケアテクノロジーが「CAREログ」シリーズのシステム基盤として選んだのが Azure でした。開発パートナーとしての採用が決まった 2019 年 10 月には、Azure の PaaS をベースにシステム構築することを提案、これがケア21 に採用されたのです。
「CAREログ シリーズの開発では、”柔軟性の高い環境の確立” と “テストを含めて効率よく開発、デプロイできること” が必須でした。これら 2 つの条件を満たすには、Azure が最適だと判断しました」と語るのは、モダンケアテクノロジー 技術責任者であり、CAREログシリーズ開発のプロジェクトマネージャーを務める佐藤 公泰 氏。「また Azure であれば開発/運用エンジニアを確保しやすく、このころの当社にも既に Azure を扱えるエンジニアが在籍していました。さらに、ケア21 様がオンプレミス システムを IaaS 化するために Azure を使っていたこともあり、Azure PaaS の提案はすんなりと受け入れていただけました」。
この提案に対して「最初は Azure の PaaS と言われても、何のことなのかまったくわかりませんでした」と桑山 氏。しかし「CAREログ シリーズにはどんどん機能が追加されることになるため、そのための基盤をこう作りたい」という佐藤 氏の話を聞くうちに、納得感が高まっていったと振り返ります。
2019 年 10 月には、有料老人ホームとグループ ホームの介護記録を蓄積かつ共有するための「介護記録システム」の開発がスタート。Azure App Service と Azure SQL Database を活用したアプリケーションで、わずか 3 か月で作成されました。そのリリースは 2020 年 1 月に行われ、約半年かけて全国の有料老人ホームとグループホームへ展開。この間もアジャイル型開発で機能を追加しながら、2021 年 4 月に完成しています。
「介護記録システム」がリリースされた翌月の 2020 年 2 月には、ケア21 の主力事業である訪問介護のシステム「CAREログST/CAREレポ」 (図1) の開発がスタート。また 2020 年 3 月には、ケア21 の全スタッフがリモートで研修を受けられる「C-Training」の開発も始まります。前者は 2022 年 8 月、後者は 2021 年 1 月にリリースされています。
「当社は開発エンジニア中心で構成されている会社であり、インフラ専門の社員は在籍していません」と佐藤 氏。これらのシステムはすべて、Azure PaaS をベースに開発されていますが、これによってインフラの構築に人員を割くことなく、現場の声を積極的に取り入れたアジャイル開発が可能になったと言います。「もちろん介護現場のご要望はどんどん変化していますので、リリースしたらそれで終わりではありません。リリース直後は毎週、その後も必要に応じて、アジャイル型でご要望に対応しています」。
ヘルパーとのやり取りを完全にペーパーレス化、社内業務の時間も年間 10 万時間以上削減
「CAREログST/CAREレポ」を活用した訪問介護業務の全体像を示したのが図 2 です。まず訪問介護事業所でサービス予定を登録すると、その内容がヘルパー (介護スタッフ) のスマートフォンに伝達されます (図 3)。その予定を基にサービスを提供し、スマートフォンでサービス提供記録を入力すると、その内容が自動的にシステムに登録され、訪問介護事業所で確認されます。サービス実績の情報はケア21 社内の請求事務処理システムとデータ連携し、サービス利用者への利用料請求や、国保連への介護給付費請求、さらにはヘルパーの給与計算まで自動的に行われます。またシステムに登録されたサービス提供記録は、サービス利用者のマイページでも閲覧可能です。
「私は他社のシステム管理者を経験してから、2024 年 2 月にケア21 に入社してこのプロジェクトに参加することになりましたが、このシステムは業界の中でかなり先進的なものです」と言うのは、ケア21 事業推進部 事業推進4課で担当部長を務める矢野 和明 氏。「介護の世界ではスタッフが高齢化しており、今までのやり方を変えたくないという意見が出やすい中、全スタッフが先進的なシステムを積極的に活用しているのも、すばらしいことだと思います」と指摘します。
桑山 氏も、「システム導入で一番大きな課題になったのはヘルパーさんの高齢化ですが、使いにくいといった声もなく、多くのスタッフからは便利だと言ってもらっています。これは、システム屋さんの常識ではなく、使う方の立場で作っていただいたからだと思います」と言います。実際に 80 歳代でヘルパーを務めているスタッフもいると述べています。「このような方々には “作った人が 70 歳代なのだから” と言って使っていただくようにしています」。
また「予定調整からサービス提供記録、請求、給与計算までカバーしている介護システムは、他にはないはずです」とも言及。C-Training でヘルパーが研修を受けた場合には、その時間も給与に反映する必要がありますが、これもシステム間連携で実現できていると説明します。
それでは「CAREログ」シリーズによって、具体的にどのような効果が得られているのでしょうか。桑山 氏がまず挙げるのが、ペーパーレス化の効果です。ヘルパーとやり取りされる紙は皆無となり、社内の記録用紙も 84% 削減されているのです。
業務効率も向上しています。社内スタッフの業務時間は年間 10 万時間以上も削減。ヘルパーの業務時間は計測が困難ですが、訪問介護事務所に出向いて紙で予定表や報告書をやり取りする必要がなくなったため、移動時間などを含めてかなりの時間が節約できているはずだと言います。
これだけ大きな成果を挙げている「CAREログ」シリーズですが「山登りにたとえれば、現在はまだ 2 ~ 3 合目に過ぎません」と花岡 氏。今後も、経営目線でのデータ分析機能、ヘルパーや社員の採用支援、生成 AI などの先進機能の活用など、さまざまな取り組みを Azure 上で進めていきたいと語ります。
「既にデータ分析機能の開発はスタートしており、生成 AI も Azure OpenAI Service の活用を検討しています。この業界はまだまだアナログな部分が残っていますが、人の力を人に注力してもらうには、デジタル技術の積極的な活用が欠かせません。中長期的には Azure 上で開発したシステムの外販も含めて、新たなチャレンジに取り組んでいきたいと考えています」 (花岡 氏)。
“この業界はまだまだアナログな部分が残っていますが、人の力を人に注力してもらうには、デジタル技術の積極的な活用が欠かせません。中長期的には Azure 上で開発したシステムの外販も含めて、新たなチャレンジに取り組んでいきたいと考えています”
花岡 健太郎 氏, 取締役 事業戦略本部長, 株式会社ケア21
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