全社的なデジタル リテラシーの底上げを図り、DX 人財を育成
中期経営計画で掲げた目標を実現するためには、創薬研究を始めとした全てのバリューチェーンで、一層のデジタル活用が必須となってきます」と語るのは、大鵬薬品デジタル・IT 統括部長(兼)デジタル・IT 統括部 ビジネスデザイン課長の保﨑 行雄 氏。
「研究機器ひとつとっても、もはや一定のデジタル リテラシーなしには十分に取り扱うことができません。当社が競争力を持って患者さまや顧客の皆さまに新しい価値の提供や製品の安定供給を続けていくためには、従業員一人ひとりが“自ら”デジタル テクノロジーを活用していくことが重要です」(保﨑氏)
こうした課題感を背景として、同社では全社員のデジタル リテラシーの向上を目的とした DX 教育に積極的に取り組んでいます。「社長からも“他社との競争に勝ち残るためにもデジタル化は必須となっている。抗がん剤メーカーであり続けるために、ヒトにしかできない事を知恵を使って考え、一人ひとりが自分事として取り組んで欲しい。”というメッセージが発信され、手上げ型の e ラーニングによる DX 教育プログラムに全従業員の約 7 割が参加するなど、全社的に DX 推進に取り組む機運が高まっています」と保﨑氏。さらに同社では、学んだ知識を生かして自分自身で業務改善できる EUC (End User Computing) 環境の構築を進めています。
もともと同社では一部の業務部門の方が Excel マクロやノーコード ローコード ツールを利用して開発をしていたものの、業務部門側の開発によってつくられたシステムは属人化しがちで管理が難しく、開発者の異動に伴いメンテナンスができなくなり再構築が必要となるケースが発生しやすいという課題があったため、積極的な推進ができていませんでした。
しかし本格的に DX を推進する方針が打ち出されたことで、デジタル・IT 統括部のリソースだけでは業務部門の改革を推進するのは難しいと判断し、開発ルールの策定や各部門での開発推進体制の整備などを行なったうえで Microsoft Power Platform を用いた EUC 開発を推進することになりました。
大鵬薬品デジタル・IT 統括部 ビジネス推進課 係長の玉川 隆之 氏は、「EUC 開発を盛り上げるためには、業務部門のコア ユーザーを育てることが重要です」と語ります。
「DX 教育を進めるなかで、デジタルに強い興味を持ち、業務改善のために活用したいと考えている人財が一定数いることがわかりました。彼らに活躍してもらうことで、デジタル・IT 統括部のリソース不足も補えると考えました」(玉川氏)
そこで同社では、各部門に 1 名の EUC 推進人財を配置することで、いわば「DX の民主化」を進めています。保﨑氏も「企業としての競争力を維持するためには、やるべきことに迅速かつ柔軟に対応することが重要です。現場のことは現場が一番理解できていますから、現場のニーズにより的確に対応するためにも、EUC 人財の育成・協力は欠かせません」と大きな期待をかけています。
データドリブン経営に向けた全社共通データ分析基盤「TAITAN」
DX 教育により推進体制を整えた同社ですが、デジタルの力をより有効に活用するために解決しなければいけない重要な課題を抱えていました。それが、社内外に散在するデータの有効活用です。
「デジタル化が進み、膨大なデータが得られる昨今、データの重要性はますます上がっています。当社としてもさまざまな角度でのデータ分析やデータドリブン経営の推進に取り組む必要がありました」と保﨑氏。一方で、長い歴史とたくさんの事業領域を有する同社では、オンプレミスや SaaS などのさまざまな環境でさまざまなシステムが稼働しており、業務部門ごとにデータが散財。十分に活用しきれていない状況でした。
「デジタル ツールを使いこなせる人財を育て、高度な分析ツールを導入したとしても、その元となるデータを有効に活用できなければ宝の持ち腐れです。データ分析の迅速化や分析結果の再利用性を高めてデータドリブン経営を実現するためにも、全社共通のデータ分析基盤の構築が必須だと判断しました」(保﨑氏)
こうして開発されたのが、データ分析基盤「TAITAN(Taiho Azure Integrated Technological data Analytics Network)」です。
TAITAN は、社内外のビッグデータを一元管理してデータを効率的かつセキュアに利用可能にし、収集したデータおよび加工データを可視化、容易に共有・利活用するための分析基盤です。「EUC 開発を想定して誰もが扱いやすいものであること」「AI やマシン ラーニングといった先端技術との親和性」「社内だけでなく社外のデータもセキュアに扱えること」といったグランド デザインをもとにして、プロジェクトは進められました。
TAITAN の動作環境として検討を重ねた結果、Microsoft Azure を選定
まず、動作環境としていくつかのクラウドサービスを慎重に比較した結果、選定されたのは Microsoft Azure でした。「選定にあたっては、共通のチェック項目を設けてひとつのサービスに偏らないように平等な視点で比較しました」と振り返る玉川氏。当初は別のクラウド サービスを第一候補として考えていたといいます。
「ユース ケースが多かったことと参考にできる情報が多かったこと、以前そのクラウド サービスを使った PoC を実施した経験があったことなどがその理由でした。しかし、選定を進めるうちに Azure の優位性が明らかになってきました」(玉川氏)
実際に操作してみると、Azure は直感的に扱えてわかりやすく、Purview を利用したガバナンス・コントロール機能も魅力に感じたと玉川氏。「TAITAN は一般従業員が扱うことを前提としたシステムですから、サポートをする私たちが中身を理解できていることが必須です。ですから、外部ベンダーに発注するのではなく内製で構築することを決めていました。つまり、私たち自身が理解しやすく扱いやすいかどうかが、大きなポイントだったのです」(玉川氏)
また保﨑氏は、「ChatGPT が大きな話題を呼んでいたこともあり、弊社でも 2023 年 6 月から Azure OpenAI を利用した GPT 利用環境を全社員に公開しています。同じ Azure 上に TAITAN を構築することで、将来的な生成 AI との連携・活用という点で可能性が拡がると感じています。また、EUC の一環として一般従業員も扱うことになりますから、使い慣れた Microsoft 製品である点も安心だと考えました」と、拡張性と信頼感が導入を後押ししたことを明かします。
さらに両氏は、日本マイクロソフトのサポート体制を高く評価します。「ツール選定の過程で、日本マイクロソフトさんからは 3 日間のオープンハックを実施していただきました。より深く製品を知れただけでなく、システム開発におけるマインドを学べたことが非常に印象深かったです」と玉川氏。単なるハンズオンではなく、まず課題を抽出し、それを解決するためにはどのツールをどのように使えばいいかを考えさせるという課題解決型のプログラム構成に感銘を受けたといいます。
「日本マイクロソフトさんのチームワークも素晴らしいと感じました。開発期間を通して、アカウント・プリセールス・FTA(FastTrack for Azure )といったすべてのチームが連携して、私たちのやりたいことを理解したうえで的確なサポートを提供してくれました」(玉川氏)
全社的な期待を集める TAITAN。次の施策も進行中
他業務を抱えながらの内製作業で挫けそうなこともあったそうですが、2023 年上期に TAITAN の開発方針が確定されてから、7 月に開発を開始、10 月に PoC 環境を公開し、マーケティング部門や研究開発部門での検証を経て、2024 年 4 月に全社員に公開されました。
「本当は 2023 年末には全社公開したかったのですが、間に合いませんでした」と苦笑いする玉川氏ですが、出だしは順調で、2024 年 5 月の段階で、すでに 4 つのシステムのデータロードに着手しているといいます。
「MR(医薬情報担当者)支援のための顧客データ分析や工場から IoT データ分析をしてみたいという要望が上がってきています。これまで部門独自の分析システムの処理速度や操作の手間に煩わされていた担当者からの“ようやく正式な全社共通の分析基盤ができた”という期待の高まりを感じています」(玉川氏)
今後は TAITAN によって全社的なデータ共有が進み、さまざまな角度からのデータ分析が行われるはず、と保﨑氏。TAITAN の構築と平行して、GxP(ライフ サイエンス組織に適用される規制やガイドライン)領域でも Azure を利用したデータ分析基盤を構築しており、GxP 領域とそれ以外の領域のデータを TAITAN 上で分析できるように連携を進めていく予定とのこと。さらに、将来的には生成 AI を活用したデータ分析も TAITAN 上で実施できるようにしていきたい、と構想を語ります。
TAITAN はあくまでスタート。これからの取り組みこそが重要
「今までは自分の業務範囲や周辺領域からの情報でしか判断できなかったことが、全社の情報が TAITAN に集約されることで、全体を俯瞰したデータ分析やデータに基づいた意思判断、今まで気づいていなかったデータの組み合わせからの価値創造ができるようになることを期待しています。今年度の目標としては、データの棚卸しを行い、真に必要なデータを携えたうえで次のステップに進みたいと考えています」(保﨑氏)
さらに「TAITAN はあくまでデータドリブン経営に向けたスタート地点であり、今後この環境をいかに活用していくかが重要」と保﨑氏。「本当の意味でのビジネス価値が生まれるまで、IT 部門としてのガナバンスとユーザーへの技術支援を適切に行なっていきたい」と気を引き締めます。
最後に玉川氏から「日本マイクロソフトさんのご支援のおかげで、内製であってもここまでのシステムを構築することができました。今後も変わらずにご支援をいただきたいと思っています」と、さらなるコラボレーションへの期待の言葉が送られました。
私たち日本マイクロソフトとしても、新しいデータ利活用の世界に踏み出す大鵬薬品さまを、単なる業務効率化だけでなく、新たな価値を生み出すための技術とサポート体制で支えてまいりたいと思います。
“ChatGPT が大きな話題を呼んでいたこともあり、弊社でも 2023 年 6 月からAzure OpenAI を利用した GPT 利用環境を全社員に公開しています。同じ Azure 上に TAITAN を構築することで、将来的な生成 AI との連携・活用という点で可能性が拡がると感じています。”
保﨑 行雄 氏, デジタル・IT 統括部長(兼)デジタル・IT 統括部 ビジネスデザイン課長, 大鵬薬品工業株式会社
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