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2025/01/24

コンビニ 300 店舗に AI・遠隔操作ロボットを展開中の Telexistence が Azure を 活用

課題となったのは、大量のデータを保管するコスト、分析処理にかかるコスト、データ転送のコストでした。また、複数のクラウド サービスの利用で運用の負担が増えること、データ連携やシステム連携が必要になるためパフォーマンス面での懸念もありました。

店舗内に店員の所在や動作を把握するセンサーを設置し、センサーから得られた情報を分析して、ダッシュボード上にさまざまな情報として表示するサービス。人間とロボットの協業パターンを探ったり、データをもとに業務改善をはかったりすることができます。

大量データの保管コスト、DWH 分析コスト、データ転送コスト、複数クラウドの管理コストなどを削減でき、最適なコストでシステムを作るための知識やノウハウも得られました。また、Azure への一本化により、データを簡単に連係できるなど、新しいデータ活用の選択肢が広がりました。

TELEXISTENCE

Azureを基盤に小売業や物流業向けに人工知能・遠隔操作ロボットを提供

「世界に存在する全ての物理的な物体を、我々の『手』でひとつ残らず把持する」を企業ビジョンに掲げ、「すべての惑星上のすべての人々に、ロボット革命の恩恵を授ける」というミッションのもと、小売業や物流業向けに遠隔操作・人口知能ロボットを展開するTelexistence株式会社(以下、Telexistence)。社名となっているテレイグジスタンスは、1980年に東京大学名誉教授 舘 暲氏が最初に提唱した概念で、遠隔操作や人工知能などを活用しながら人間の存在を拡張するビジョンと技術システムを指しています。

Telexistenceは、2017 年に設立されたスタートアップ企業で、世界中から高い専門性をもつ人材が集まり、ハードウェア・ソフトウェア、AI、遠隔操作技術を一貫して自社で開発しています。2021年11月には、小売業界向け人工知能・遠隔操作ロボット TX SCARA の社会実装を開始しました。現在はコンビニエンス ストア約300店舗への導入が進められています。また、2022年 10月 には物流会社と共同で Telexistence製の物流施設向けロボットの実証実験を行い、2024年 7月からは、大型物流施設内に開設した常温・低温複合型センターにおいて実業務におけるロボットの段階的稼働を開始しています。

同社の技術開発やソリューション開発を統括しているTelexistence株式会社 CTO佐野 元紀氏は、同社のロボットの特徴をこう話します。

「テレイグジスタンスは遠隔のロボットを自分自身のように操作する技術です。このコア技術に AI による自動制御を組み合わせ、オートメーションとテレオペレーションによるロボット ソリューションを提供しています。コンビニエンス ストアのバックヤードに導入されている TX SCARAは、飲料が陳列棚からなくなると自動的にそれを検知して必要な商品を自動補充するロボットです。我々のスタッフが遠隔からロボットを操作することもでき、想定していない環境変化が原因で AIによる陳列が失敗した場合、インターネットを通じた人による遠隔操作で陳列業務を 100%成立させることが可能です」(佐野氏)。

Telexistenceのサービス提供基盤は Microsoft Azure(以下、Azure)を基盤としています。ロボット ソリューションに新機能を追加する際も、Azureを活用してコスト効率の高い開発を行っています。そんななか、Azureを使って新たに提供を開始したのが、店舗業務を可視化するソリューションです。

テレイグジスタンスは遠隔のロボットを自分自身のように操作する技術です。このコア技術に AI による自動制御を組み合わせ、オートメーションとテレオペレーションによるロボット ソリューションを提供しています

佐野 元紀氏, CTO, Telexistence 株式会社

店舗内の情報を分析する店舗業務可視化ソリューション

店舗業務可視化ソリューションは、TX SCARAを使った飲料陳列ソリューションの追加機能として提供するサービスです。佐野氏は開発の狙いをこう説明します。

「飲料陳列ソリューションは、陳列や補充という冷蔵庫内での負担のかかる作業を人間の代わりにロボットが行うサービスです。労働力不足への対応のほか、ピーク時にはロボットと作業を分担することで、店頭での接客など人間にしかできない仕事に集中できるようになります。ただ、ロボットと人間が協業していこうとすると、ロボットによる効率化を進めるだけでなく、人間が実際にどのような作業に時間をとられているか、どのようなタイミングでロボットを活用すればよいかを知る必要があります。そうしたニーズに応えるために開発したのが店舗可業務視化ソリューションです」(佐野氏)。

店舗業務可視化ソリューションは、店舗内に店員の所在や動作を把握するセンサーを設置し、センサーから得られた情報を分析して、ダッシュボード上にさまざまな情報として表示するサービスです。店舗の責任者やエリア マネージャー、本部の分析担当者やマネジメント層がダッシュボード上の情報を見ながら、人間とロボットの協業パターンを探ったり、データをもとに業務改善をはかったりすることができます。

ロボットと人間が協業していこうとすると、ロボットによる効率化を進めるだけでなく、人間が実際にどのような作業に時間をとられているか、どのようなタイミングでロボットを活用すればよいかを知る必要があります

佐野 元紀氏, CTO, Telexistence 株式会社

他社クラウドでプロトタイプをクイックに開発するも運用コストが課題に

店舗業務可視化ソリューションでは、最初に他社のクラウド サービスを使ってプロトタイプを作成しました。

「他社のクラウド サービスは使い慣れたツールだったため、クイックに開発して検証するのに向いていたのです。ただ、このプロトタイプをそのまま本番環境に移行すると、運用コストが想定以上に増えていくことがわかりました。実際、サービス インしてみると、大量のデータを処理するためのコストが膨大で、このまま運用することが難しいことがわかりました」(佐野氏)。

プロトタイプは、店舗データをセンサーからクラウドにリアル タイムに転送し、クラウドDWHに蓄積、分析して Webダッシュボードに結果を表示するという構成でした。素早く開発するため、モバイル バックエンド サービス( MBaaS)も活用していました。課題となったのは、大量のデータを保管するコスト、分析処理にかかるコスト、データ転送のコストでした。

「複数のクラウド サービスを利用することで、今後運用の負担が増えることも課題でした。また、データ連携やシステム連携が必要になるためパフォーマンス面での懸念もありました」(佐野氏)。

サービス インしてみると、大量のデータを処理するためのコストが膨大で、このまま運用することが難しいことがわかりました

佐野 元紀氏, CTO, Telexistence 株式会社

Azureへの移行を決め、最適なサービスとして Azure Data Explorerを採用

そこで取り組んだのが店舗業務可視化ソリューションで利用していたシステム基盤の Azure への移行です。

「コストやパフォーマンス、運用などの課題に直面して悩んでいたときに、マイクロソフトの担当の方から『 Azureのサービスに移行するとコスト効率が高く、柔軟性や拡張性が高いサービス基盤が構築できます』と教えていただきました。ただ、私自身、Azureのデータサービスや分析サービスにはそれほど詳しくありませんでした。Azure IoT Hubや Azure Synapse Analyticsといったサービスが使えそうだとは思っていましたが、どのように利用すれば最適なシステムが構築できるかまでは考えが及んでいませんでした」(佐野氏)。

マイクロソフトの担当者と議論を重ね、最終的に店舗業務可視化ソリューションのシステムに最適なサービスとして採用したのは Azure Data Explorerです。Azure Data Explorerは、大量のログ データやテレメトリ データに対するクエリと分析をすばやく実行するサービスです。

「店舗に設置したセンサーから、データを直接 Azure Storageに送り、Azure Data Exploreで分析するというシンプルな構成でサービスを作り直すことができました。既存の構成では、大量のデータをデータベースに保管したり、クラウド DWHへのクエリやデータ転送したりするたびにコストがかかっていました。それらの機能を Azure Data Explorerに集約することで、データを最短で分析できるようになりました。また、Azure基盤にシステムを移行したことで、飲料陳列ソリューションとの連携性を高めることができました」(佐野氏)。

既存の構成では、大量のデータをデータベースに保管したり、クラウド DWH へのクエリやデータ転送したりするたびにコストがかかっていました。それらの機能を Azure Data Explorer に集約することで、データを最短で分析できるようになりました

佐野 元紀氏, CTO, Telexistence 株式会社

コスト最適化、データ連携、ノウハウの獲得などでメリットを実感

Azureに移行することで得られたメリットと効果は大きく3つに整理できます。

1つめは、コストの最適化です。具体的なコスト削減額は今後の本番運用で明らかになっていきますが、大量データを保管するコスト、DWH分析コスト、データ転送コスト、複数クラウドを管理するコストなどを削減し、ビジネスとシステムの拡大にともなって、コストを最適化できる仕組みを作ることができました。

「クラウド サービスは利用が増えるにともなってコストがかかるため、継続的に見直していくことが求められます。プロトタイプをクイックに開発するだけでなく、実際の本番運用を見据えて最適なコストでシステムを作るための知識やノウハウが得られたことは大きなメリットです」(佐野氏)。

2つめは、Azureへの一本化により、新しいデータ活用の選択肢が広がったことです。

「ロボットを制御するクラウド プラットフォームと、店舗を可視化する分析プラットフォームを Azureに集約したことで、それぞれのデータを簡単に連携させることができるようになりました。プロトタイプは他社クラウドを利用していたため、データを変換処理する必要があり、データ連携の際に CSVを日次バッチで処理することもありました。いまは、よりリアル タイムなデータ連携が可能で、Webダッシュボード上でロボットと店員さんの状況をすばやく確認できるようになっています。具体的には、店員は何時にどんな作業をしていたか、その際、ロボットはどのような稼働状況だったのかがなどがわかります。データ表示のレスポンスやパフォーマンスも改善しました」(佐野氏)。

3つめは、Azureを活用していくためのノウハウが得られたことです。マイクロソフトの担当者からサポートを受けることで、Data Explorerなどの新しいサービスの知識や、既存のアーキテクチャを見直すヒントが得られたといいます。

「マイクロソフトからは、アーキテクチャの見直しから、具体的な機能やサービスの選定までさまざまな知識とノウハウを提供していただきました。これまでもスタートアップ支援としてサポートしていただいていたので、引き続き、マイクロソフトのサポートを活用しながら、既存サービスの見直しや新機能の開発に取り組んでいきたいと思います。データ活用という点では、POSや発注システムなどとの連携機能なども考えられます」(佐野氏)。

マイクロソフトからは、アーキテクチャの見直しから、具体的な機能やサービスの選定までさまざまな知識とノウハウを提供していただきました

佐野 元紀氏, CTO, Telexistence 株式会社

工場の外の人々の生活環境にも知能化されたロボットを普及させること

POSや発注システムなどとのデータ連携は、ロボットを活用するメリットが大きく生きてくる分野です。佐野氏はこう話します。

「今までは、店頭在庫などを人手で確認する必要がありました。しかしロボットを利用して自動で補充する場合、いつ、何が、どのくらい売れたかまで正確に把握できます。受発注や在庫管理には小売業としてのお客様の戦略があります。われわれがロボットでの陳列を通じて得たデータや、店舗業務を可視化して得たデータを提供することで、より戦略的な店舗展開や商品展開ができると考えています。将来的にはサプライ チェーン全体を含めたデータ活用にもつながってくると思っています」(佐野氏)。

佐野氏は今後についてこう展望します。

「会社としては3つの柱でビジネスを育てていこうとしています。1つめは、国内のコンビニエンス ストアを中心により多くの店舗にロボットを入れていくこと。2つめは、日本以外、特に北米への展開を進めること。3つめは、小売以外の業種にロボットを入れていくことです。システム面から見ると、まず国内については、ビジネスのグロースにともなって、サーバーの処理能力をスケール アップ、スケール アウトしていくことが求められます。マイクロソフトと連携していかにコストを最適化して、サーバーを増強していくかが重要です。また、北米向けでは、店舗レイアウトの違いや商慣習の違いを考慮するため、ロボット製作から考え直したり、新しいソリューションを作っていったりする必要があります。コアとなるシステムを、いかにリージョンをまたいで展開するか、現地スタッフとどう協力するかなど、ここでもマイクロソフトとの協力がカギになります。小売業以外の展開についても、例えば、すでに物流での事例がありますが、ここでも、サーバーやクラウドのリソースをどう管理していくかを検討する必要があるため、マイクロソフトにサポートをお願いしたいと考えています」(佐野氏)。

Telexistenceが目指すのは工場の外の人々の生活環境にも知能化されたロボットを普及させることです。サービスが広がるなかで、ロボットとクラウドはより広く密接につながるようになります。佐野氏はマイクロソフトへの期待を次のように話します。

「信頼性の高いサービスを最適なコストで提供していただき、パートナーとして一緒に歩んでいただきたいと思っています。また、近年は AIがレバレッジできる領域は増えてきています。自社開発のAIとともに、マイクロソフトの AI技術を活用しながら、より踏み込んだ AI開発を進めていきたいと考えています」(佐野氏)。

Telexistenceの取り組みをマイクロソフトがこれからも支えていきます。

近年は AI がレバレッジできる領域は増えてきています。自社開発のAIとともに、マイクロソフトの AI 技術を活用しながら、より踏み込んだ AI 開発を進めていきたいと考えています

佐野 元紀氏, CTO, Telexistence 株式会社

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