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アクセシビリティ

分身ロボット「OriHime」などを活用した、マイクロソフトにおける障碍のある人の就労の取り組み

ロボット「OriHime」と接続されたノートパソコン

何らかの事情で、通勤や決まった時間での就労が難しい、といった人々の就労をいかに実現していくか。これはそういった人々の生きがいの点からも、ウイルスとの共存社会におけるリモートワーク推進という点からも、重要な課題だと言えます。分身ロボット「OriHime」などを開発、提供する株式会社オリィ研究所とマイクロソフトの取り組み、「OriHime」などを活用してマイクロソフトで働く2 名の働き方を紹介します。

移動制約などの理由で社会参加が難しい人々の ”孤独" を解消するため「OriHime」を開発

障碍がある人にとっての情報やサービスへのアクセスのしやすさである「アクセシビリティ」への理解を深めるため、毎年 5 月の第 3 木曜日に定められている「Global Accessibility Awareness Day (GAAD)」。それにあわせ、日本でも「アクセシビリティの祭典」というイベントが開催されました。昨年までは現地に多くの参加者が集まったイベントですが、今年は完全にオンラインでの開催。 そのイベントの最後に、可愛らしいロボットが登場しました。その名は「OriHime」。身体的課題や入院などによって行きたいところに行けない人のため、もう 1 つの身体の役割を果たす「分身ロボット」です。これを開発、提供しているのは株式会社オリィ研究所 (以下、オリィ研究所)。同社はコミュニケーション テクノロジーによって人々の社会参加を妨げている課題を解決し、新たな社会参加の可能性を拡張していくことを目指しています。

「現在の日本では、病気や怪我で学校に通えない子どもが約 4 万人おり、15 歳~ 39 歳の広義のひきこもり推計数は約 54 万人、1 人暮らし高齢者は 900 万人に上っています」と語るのは、オリィ研究所 共同創設者で代表取締役 CEO を務める吉藤 健太朗 氏。さらに、身体障碍や高齢、育児などの理由で、外出する際に何らかの困難を伴う「移動制約者」が 3,400 万人を超えるというデータもあると指摘します。「このような人々の中には、自分がだれからも必要とされていないと感じ、辛さや苦しさに苛まれている方が少なくありません。このような ”孤独” を解消し、多くの方がワクワクしながら社会参加できるようにしたい。その想いから開発したのが OriHime です」。

OriHime はパソコンやタブレットで簡単に遠隔操作できるロボットであり、操作者はロボットの顔の向きや手を動かしながら、音声によるコミュニケーションが行なえます。額の部分にはカメラが内蔵されており、OriHime の前にいる人の顔を見たり、首を動かすことで周りの状況を確認することも可能です。また、机上に置くタイプの OriHime のほか、床の上を動ける「OriHime-D」も開発。遠隔地からのコミュニケーションだけではなく、身体労働を伴う業務も可能になっています。

OriHime を活用し障碍のある人の就労に取り組むオリィ研究所とマイクロソフト

マイクロソフトは 2019 年度に「分身ロボット カフェ DAWN」の協賛企業になり、OriHime を活用した就労の取り組みにも参画しており、現在 2 名のパイロットを採用しています。 オリィ研究所では、OriHimeなどを活用して就労している方々をパイロットと呼んでいます。

「2019 年 10 月の分身ロボット カフェに、マイクロソフトでアクセシビリティ担当のプリンシパル アドバイザーを務める大島さんが来店し、カフェに参加しているパイロットの方に IT 関連の仕事をお願いすることは可能でしょうかとご相談があった」と振り返るのは、オリィ研究所で就労支援などを担当する中吉 雅代 氏。そのご相談をもとに、SE経験もある山本 順子 氏を紹介し、面談などを行なった上、山本 氏のマイクロソフトでの就労が決定しました。

山本 氏はそれまでのご自身の状況を、次のように説明します。

「私は福岡の会社で SE をしていたのですが、2014 年 7 月に重症筋無力症という難病になってしまいました。発見は早かったのですが、徐々に歩けなくなり、2015 年 3 月に退社しています。その後、クラウドで依頼された仕事などを単発で行っていましたが、頻繁に入院して治療する必要があるため、継続的な就労は難しい状況でした。このような状況の中、オリィ研究所の記事を見かけて、2019 年から分身ロボット カフェに参加できることになりました。分身ロボット カフェでは、お客様をお迎えして話をしたり、OriHime-D で配膳も行いました。想像していたよりもお客様との距離が近く、自分がその場にいるような気持ちになることに驚きました。知らない人といろいろと話をするのは本当に久しぶりで、楽しくて興奮しました。自分の周りの色がガラリと変わった感じです。マイクロソフトでの就労の話をいただいたときも、ぜひやりたいと思いました」。

マイクロソフトでの主な仕事は、ニュースの翻訳や資料作成に加え、Windows や Office のプレビュー版のアクセシビリティ機能を確認して検証するといったもの。これらの仕事を行うため、OriHime の他にメールや Microsoft Teams も活用し、チャットや Web 会議、ファイル共有、Wiki によるナレッジ共有なども行っています。

まるでその場にいるかのように、ワクワクしながら仕事に取り組める

オリィ研究所が推進する就労支援には、さまざまな工夫が凝らされています。その 1 つが「バディ制度」です。障碍がある人の中には、山本 氏のように継続的な就労が難しいケースが少なくありません。そこで企業への就労の際には必ずもう 1 人「バディ役」の人を推薦し、体調などの関係で就労が難しい状況になった際でも、バディと補完しあえるようにしているのです。

山本 氏のバディ役として就労しているのが、広島県在住の今井 道夫 氏です。同氏は 20 歳代のころに福祉関係の仕事に従事し、心の重荷から精神的な不調を発症。人に会うことが苦手になってしまい、体調が優れない日が多くなったと振り返ります。その後 IT ベンチャーへと転職し、現在は福祉と IT を融合した事業を展開する企業で働く一方で、自ら立ち上げた法人の業務にも取り組んでいます。これらに加えて週に 2 時間のペースで、マイクロソフトの仕事にも従事しているのです。

「私は 2019 年度の分身ロボットカフェから参加しました」と今井 氏。東京のカフェでの接客を広島から行うことで、距離と時間の概念が大きく変わったと語ります。「マイクロソフトでは山本さんを支える役回りです。毎週、世界の最新の情報に触れることができ、自分自身のこれまでの経験も活かせる仕事なので、ワクワクしながら取り組んでいます」。

「今井さんの存在があったからこそ安心して就労できました」と山本 氏。働き始めたときには、体調をキープし続けられるのか不安でしたが、今井 氏がバディになることでこの不安を解消できたのだと言います。山本 氏は現在、1 日 2 時間、週 4 日間マイクロソフトの仕事を行っています。

山本 氏が実際に働いている場所は、入院先の病院であることも多く、2020 年 3 ~ 4 月にかけては、半分の期間を病室で過ごしていたと振り返ります。

「私自身は病院にいるのですが、OriHime を使うとまるでマイクロソフトの社内にいるような感覚で話ができます。首を動かせば周りも見渡せますし、ウンウンと頷いたり手を叩いたりと、こちらの気持ちも動作で伝えられます。また相手を画面に縛り付けることなく、自然な形でその場にいられるのも、 Web 会議と大きく違うところです。そのため必要な話をして終わり、というのではなく、なんとなく雑談しながら仕事を進めていく、といったことも可能です」 (山本 氏)。

一方、マイクロソフトの大島は、お二人には十分なバックグラウンドがあり、採用における不安はなかったと言います。「Microsoft Teams による情報共有やコミュニケーションにすぐに慣れてくれたこともあり、離れていても問題なく仕事を進めることができています。もともとこのような働き方をしてもらっていたので、外出自粛の期間も、お互いこれまでと全く同じように仕事ができていました。移動ができない、面と向かった対話の負担が大きい、といった理由だけで、こんなにも優秀な方々が就労においてバリアがあったことを実感しています」

吉藤 氏は語ります。「私自身もいまは健康で自由に移動できますが、いずれは移動が困難な状況になるでしょう。これは障碍がある人々や高齢者だけの問題ではなく、私たち全員の問題なのです。このような状況になっても、誰かの役に立てる張りのある人生を送れるようにしたい。いまマイクロソフトと取り組んでいるのは、そのためのモデルを作り上げることなのです」。

吉藤 健太朗 氏 スナップショット

株式会社オリィ研究所

共同創設者 代表取締役 CEO
吉藤 健太朗 氏

Ms。雅代 氏 中吉 スナップショット

株式会社オリィ研究所

事業創造部
中吉 雅代 氏

山本 順子 氏 スナップショット

福岡県在住

山本 順子 氏

今井 道夫 氏 スナップショット

広島県在住

今井 道夫 氏

電話会議

Microsoft Teams を使ったミーティングの画面。山本 氏と今井 氏は今回始めて Teams を使うことになりましたが、すぐに使いこなせるようになったと言います。

Web・AI・IoT 障害者集団が提案するアクセシビリティの近未来 ~イノベーションを創造し、社会課題の解決を通じてアクセシビリティの発展を目指します~ 20205.22 fri
22 B ビリティの祭典 オンライン #accfes2020 板垣 宏明

オンラインで行われた「アクセスビリティの祭典」。そこに分身ロボット「OriHime」を通して、マイクロソフトの大島が自宅から参加させていただきました。何らかの事情で行きたいところに行けない人でも、OriHime を使うことで遠隔地からその場に参加することが可能になります。

テーブルに置いておいたOriHimeについて熱く語る吉藤さん。
吉藤さんと織姫のスナップショット

OriHime について熱く語る吉藤 氏。

マイクロソフト社内で OriHime と話している大島
OriHimeを通じて大島と話す山本

マイクロソフト社内で OriHime と話している大島 (左) と、OriHime を通じて大島と話をする山本 氏が見ている画面 (右)。離れた場所にいても、まるで一緒の場所にいるかのような感覚で話ができます。